
- 獲得型授業とは
- 獲得型教育研究会(獲得研)設立の目的
- “全身で学ぶ”獲得型学習にかかわるアクティビティとスキルについて研究し、その体系化を図ること。これまで世界中で膨大な数のアクティビティが蓄積されてきたが、この中から参加・獲得型学習の「コア」になるアクティビティを選び出し、その習得の道筋まで含めて体系化すること。
- 獲得型教育に携わる教師の(自己)研修プログラムを開発・普及すること。
- 研究活動を通じて、会員の資質向上をめざすこと。
- 研究成果を出版物として公開すること。
- 研究会設立の経緯
- 「演劇的知」の追求
- 「あかり座」全国公演
- 第Ⅱ期の活動について
獲得型授業という概念は、1990年に提起した一つの理念型です。研究会の代表(渡部)が、日本の授業を“教師による知識注入型授業から学習者が主体となる獲得型授業の方向へ徐々にシフトすべきだ”と提案したことに始まります。
この言葉にはリサーチ・ワークなど「自学の訓練」とディスカッション、ディベート、プレゼンテーションなど「参加・表現する学び」という二つの側面が含まれています。これらは相互に関連しあいながら緩やかな体系をなすものです。(渡部淳編『海外帰国生-日本の教育への提案』太郎次郎社.1990年)
研究会の設立にあたり、以下の4つの課題を3年間(2006年~2009年)で達成することを目指しました。
本研究会が「アクティビティとスキルの体系化」と「研修プログラムの開発・普及」を目指すにいたった背景には次のようなことがあります。
一つは20年をこすプロジェクト学習の指導経験から、演劇的手法をもちいて“学びを全身化する”ことの有効性を検証してきたことです。獲得型授業では、学習者が情報を収集するだけでなく、「コトバ」「モノ」「身体」という「3つのモード」を自在に駆使し表現する楽しさを味わいながら学んでいきます。
このような“知的探究の活動から身体表現(パフォーマンス)にいたる一連の学習活動を通して学習者一人ひとりの内部に形成される能動的で創造的な知のあり方”を演劇的知と呼び、その形成を図ってきました。(渡部淳『教育における演劇知―21世紀の授業像と教師の役割』柏書房.2001年)
1990年代から続くディベート・ブーム、コミュニケーション・ブームに象徴されるように、表現指導の必要性自体は日本で広く理解されつつあります。しかし一方で、生徒の授業参加とはいってもその実効性が乏しいのではないか、教師の指導力が追いついていないのではないか、などの批判もでているのが現状です。
このことは、日本の教育界が、参加・表現指導の必要性を認識するというレベルから、生徒参加を前提としてその質を問題にするレベルに移行しつつあることを物語っています。こうした状況のなかで獲得型教育の方向性をさらに積極的に推進するねらいがあります。
もう一つは国際交流基金日米センター(CGP)の助成を受けて教材開発に取り組んだ「米国理解研究会(あかり座)」の経験です。これは11人の中高教員が“若者の視点からアメリカの全体像に迫る参加型教材の開発・普及”に携わったものです。2003年から2年半におよんだプロジェクトの成果は、すでに2冊の本として出版されています。(渡部淳編『中高生のためのアメリカ理解入門』明石書店.2005年。同『中高生のためのアメリカ理解入門 ガイドブック』明石書店.2005年)
この本の特徴は、「東京ディズニーランド」や「メジャーリーグ野球」などごく身近な16テーマを入り口にしてアメリカ社会の構造に迫るアプローチをとっていること、アメリカの抱える光と影をくっきりと描きだそうとしていること、教材を実際の授業にかけてその有効性を検証していること、全てのテーマに自前のアクティビティを導入し参加・獲得型の学びを提案していることなどです。
更に特徴的なことは、執筆後も教師たちが自前のアクティビティをもって公開授業・ワークショップを続けたことです。沖縄の嘉手納高校から北海道の札幌静修高校まで一年に及ぶ「あかり座」全国公演です。日本を縦断するこの教材普及活動は、獲得型教師の資質形成を図る旅でもありました。
この「あかり座」公演で、学校も教科も違う教師たちが様々な組み合わせのチーム・ティーチングに挑みましたが、とりわけ協同して授業をつくることで互いに啓発されることが極めて多いことを実感しています。こうしたことから、校内研修であると校外研修であるとを問わず、アクティビティの運用経験を豊かにもりこんだ(自己)研修プログラムの提案が必要だと考えるにいたりました。
以上のような長い経緯を経て、小学校から大学までの教員を主な会員とする「獲得型教育研究会」を立ち上げることにしたのです。尚、参加・獲得型授業がおかれている状況や課題のより詳細な内容については次の著作をご参照ください。渡部淳『教師 学びの演出家』旬報社.2006年。
獲得型教育研究会の第I期(2006年~2009年)の流れについては本HP「活動履歴」をご参照ください。延べ30回の定例会・合宿研究会、3回の公開セミナーなどを開催し、所期の活動目標をほぼ達成できたと考えております。
獲得研の第II期(2009年~2012年)では、研究成果の出版および普及活動を中心に活動を進めることになります。
出版としては、「獲得研シリーズ 全5巻」(旬報社)の刊行が始まりました。まずは第1巻『学びを変えるドラマの手法』が2010年8月に23名の執筆者で出版されています。また、シリーズ本に先立って、ジョナサン・ニーランズ、渡部淳著『教育方法としてのドラマ』(晩成書房)が2009年12月に刊行されました。
普及活動に関連しては、公開セミナー・ワークショップの開催、第2次「あかり座」公演(=全国での公開授業・ワークショップ)、提携校との協力による教師研修プログラムの開発などが進んでいます。
獲得研が全面的に運営に協力している第10回「高校生意見発表会」も、2010年春に東京で開催されました。