先日、オックスフォード大学のオリエンタル・インスティテュートで、1年生の日本語クラスを見学させてもらった。担当の西澤芳織先生は、昨年のパリ研修会の参加者である。受講生6人という恵まれた規模で、そのなかに日本語学習歴6年の学生も混じっている。

この日のテーマは敬語だが、西澤先生の進め方がすこぶる面白い。アルフォンス・デーケンさん、弦念丸呈(ツルネン・マルテイ)さんなどの文章を素材にしてペアワークをやるのだ。作家本人に「なった」学生に、インタビュアー役の学生が質問し、内容を立体的に描き出す。ドラマ技法の「ホット・シーティング」を使った授業である。
3組のペアがそれぞれ会話を終えたところで、「嘘も方便」と「本音と建て前」の境界はどこだろう、という議論になった。ゲストのわれわれも意見を求められたが、さすがに不意をつかれた論点で、思わず知らず熱い議論にまきこまれる結果になった。

ディスカッションを通して気がついたのが、学生たちの背景の多様性である。6人のなかに、フランス系、ルーマニア系、中国系、スコットランド系、日系の学生がいる。議論しているうちにごく自然に比較文化論になっていくので、これがまたなんとも楽しい。
授業の後、旧知の金田智子先生(学習院大学教授 サバティカルで滞在中)が、発表を担当する研究会にも飛び入り参加させてもらったので、これまでのオックスフォード大学訪問とはまた一味違う展開になった。