国際交流基金「欧州日本語教師研修会」の講師は、昨年に続いて2回目になる。本年度の研修会も、7月4日と5日の2日間、エッフェル塔からほど近いパリ日本文化会館の最上階にあるホールで行われた。
今年のテーマは「学びの全身化×教育プレゼンテーション」である。昨年同様、両日とも6時間分のセッションが組まれている。事前に参加者自身の実践をまとめて提出したり、私が書いた論文(5本)を読んで、各々について質問したいことや意見・感想を提出したりする課題をこなすので、参加者の方々にとっては、相当にハードなプログラムである。
今回参加して、企画者である藤光由子先生(日本語教育アドバイザー 写真右 写真左は日本語事業部次長の申熙晶さん)の運営プランがどんどん深化していることを実感した。大きくは3つある。
第1は、参加者の多様性だ。具体的には、フランス、イタリア、スイス、スペイン、英国という参加地域の多様性、昨年、一昨年の参加者も複数含まれているという参加経験の多様性、そしてフランス人の大学院生から大学教師としての経験が30年を超すベテランまでいるというキャリアの多様性である。
第2は、パリ会場での参加(16名)とオンライン上の参加(14名)という2重構造のプログラムになっていることだ。パリの会場と、フランス各地、イタリア、オランダ、スイス、ドイツ、ハンガリー、日本を同時中継でつなぎ、ネット上の参加者も議論に参加したり、プレゼンをつくって発表したりする。
第3は、私のセッション(講義+ワークショップ)と昨年の参加者だったベルリン日独センターの植原久美子先生のセッション(実践報告+ワークショップ)が入れ子構造になっていることだ。
植原先生は、初日の「日本語教師のライフコース研究」のリソースパーソン役にはじまり、2日目の実践報告にいたるまで、まさに獅子奮迅の働きをしてくださった。
ちなみに、私のセッションは、獲得型教育のなかの学習論、アクティビティ論、教師論に焦点を当てたものである。(下の写真:赤いビルが滞在したホテル 旧JALホテル)
ともあれ、この3点をあげただけで、どんなに複雑な構造をもつ研修会なのか分かる。冒頭の挨拶で「多少の混乱・混沌はあるだろうが、それも含めて楽しんでみましょう」といったのだが、案に相違して、プログラム自体は思いのほかスムーズに進んだ。
大勢のスタッフの方々、参加者の方々の全面的協力があってのことなのだが・・・。(下の写真:ホテルからパリ文化会館へは徒歩10分)
なんといっても難しいのはタイム・マネジメントである。ただ、メルボルンの国際研修会から数えて藤光先生とは3回目のコンビになる。そこで、いまこの瞬間にお互いがどう動くべきか、プログラムのどこを削ってどこを入れるべきか、阿吽の呼吸で判断できるようになってきたのがなんといっても大きい。(下の写真:パリで朝焼けをみるのは珍しいので1枚 29階の部屋から)
研修成果の定着という点についていうと、すでに昨年の研修参加者を中心として、お互いの実践を交流するネット空間がつくられていて、リアルタイムで報告を聴きあう会合が持たれたり、実践報告原稿がアップされたりしている。
獲得型教育の実践が、こうして軽々と国境を越えて広がっていく様子を目の当たりにするのは、何より心強いことである。(下の写真は植原先生)
昨年もそうだったが、今年も欧州研修会の複数の参加者の方が、一時帰国のタイミングに合わせて、「第13回獲得研夏のセミナー」(8月7日)に申し込んでこられている。ぜひ獲得研のメンバーともネットワークを築いていただけたらと願っている。
今回のような、複雑な構造をもつ研修会の場合、ふり返りの作業ひとつにも大変な労力がいる。スタッフの方々はさぞ大変なことだろう。
私自身も今回の成果と課題について、さらにじっくり考えてみたいと思っている。