土曜日に開く獲得研セミナー「日英におけるドラマ教育とシティズンシップ教育」の準備が着々と進行している。池野範男先生(広島大学)が中心になって進めている研究プロジェクトの一環だ。
昨日は、英国チームの二人が成田空港から私の「教育学演習」に直行し、ワークショップに参加してくれた。3年生のゼミ(30人)だが、学生たちも新しいゲストを迎えて大喜び。この日のテーマが、「繋がりを感じる」とあって、「人間と鏡」やら「白紙の見立て」で短いシーンをつくるやらのペアワークを、みんなと一緒に楽しんだ。
今日は、杉並の座高円寺を見学させてもらった。地域の劇場の見学は、もともと英国側の希望である。というのも、オックスフォード大学のヴェルダ・エリオットさんが、地域劇場と連携して、さまざまな理由で就学に困難を抱える若者たちを劇場に招じ入れて彼らの活躍の場をつくる、シティズンシップ教育の共同研究をしているからだ。
去年、そのペガサス劇場を見学させてもらった。そこはオックスフォード市の住宅街の真ん中にある小さくて居心地のいい劇場だった。ミュージカルやドラマの役者として演技をするチームはもちろん、脚本執筆、衣装、照明と音響チームなど、さまざまなコースを用意している。若者が自分の関心に応じて制作にかかわり、創造的な活動のなかで自己肯定感をたかめ、社会参加の準備を進めるためである。
座高円寺では、企画・広報担当の森直子さんと企画・制作チーフの石井惠さんに、劇場の概要案内からバックステージ・ツアーまで、タップリ2時間ガイドしてもらった。コンペで選ばれた伊藤豊雄作品だというが、広々と開放的なエントランスからしてワクワクするような美しさがある。この劇場は、公演のないときでも、いつも市民に開かれている。
なにより、劇場のコンセプトが素敵だ。できるだけルールをつくらず、町なかの空き地のようにひらかれた公共空間としての劇場をめざしているのだという。そこに人が集まり、散っていく中で、自然に新しい文化がうまれることが期待されているようだ。
だから、演劇公演だけでなく、劇場前の広場をつかった“座の市”、阿波踊りの練習、商店街の文化祭、年間80回にものぼる子どものワークショップなど、じつに多様な出会いの場が用意されている。ちなみに、杉並区の小学校4年生(約3千人)は、毎年、無料でお芝居を観る。
劇場の運営は、指定管理者であるNPOと芸術監督の佐藤信さんと杉並区の三者協議でされているのだそうだ。なるほど、スタッフの方々の意欲と創意はもちろんだが、地域の人々と行政の支えがあってこそ、こんなユニークな活動が継続できているのだろう。
それで土曜日のことだが、日英の専門家が集まって、ドラマ教育とシティズンシップ教育の架橋を目指すシンポジウムを開くのは、おそらく初めてである。さてどんな展開になるのか、いまから楽しみである。