ハリー・ダニエルズ教授(教育デパートメント)のインタビューを終えてから、研究チームのメンバーの1人ベルダ・エリオットさんが、エクセター・カレッジを案内してくれた。エクセター・カレッジは大学都市の中心部にあるカレッジで、以前にも一度訪ねたことがある。
1314年の設立というから700年の歴史があり、オックスフォード大学にある40近いカレッジのなかでも5番目に古いところだ。エリオットさんは大学院時代をここで過ごした。「博物館のなかで勉強しているようなものです」というが、まさにそんな感じだろう。教会、食堂、学寮、庭がセットになった佇まいがいかにも美しい。
学生数600人、そのうちの半分が大学院生らしい。教員の数は?と聞いたら、「さあ、学生2人に教員1人という見当でしょうか」という。もちろんチュートリアル制度について知ってはいるが、こんな答えをきくと改めてその贅沢さが実感される。
オックスフォード大学の訪問は3回目だが、今回に限って、なんだか懐かしい感じがした。どうしてだろうと考えているうち、ついこのあいだ来たように思っていたのは勘違いで、10年ぶりの訪問だということに気がついた。
2004年の夏はロンドンからレンタカーを運転してやってきた。一方通行の多さに苦労してようやくホテルにつき、まずはアテネ・オリンピックの結果を知りたいと思った。しかし、どういうことだろう。いくらチャンネルを変えても、やっているのはヨットと馬場馬術ばかりである。一向に全体像がわからないだけでなく、ニュース映像で、女子マラソン期待の星ラドクリフ選手が途中棄権する場面ばかり何十回もみせられた。野口みずき選手が金メダルをとったことを、ずっと後になって知ったほどである。
ことほど左様に、イギリスの放送局は他国選手の活躍に興味がないようだ。しかし、変われば変わるものである。2008年の北京オリンピックのときは状況が一変していた。あらゆる競技の結果をテレビで知ることができるようになったのだ。ロンドン・オリンピックを控えて、国民の啓蒙をはじめたというところだろうか。
前回はオックスフォードに3泊し、セント・メアリー教会の塔に登ったり、植物園を散策したり、クライスト・チャーチの夕拝に参加したりとゆっくり見学できた。もちろんカレッジもたくさんのぞいた。そのときの光景が10年かけて心の中にゆっくり沈殿していき、今回の訪問で、懐かしさの感覚をともなって甦ったものらしい。
エリオットさんのガイドが素晴らしかった。彼女は学部がケンブリッジ大学で、女子ラグビー部のプロップだったというから頼もしい。所属するセント・ヒルダ・カレッジで、昼食をご馳走になった。2007年まで女子カレッジだったそうで、言われてみれば、どことなく津田塾大学や東京女子大学を思わせる静かな佇まいである。ファカルティーは食堂の上段、学生は下段のテーブルで食事をするから、ハリー・ポッターもかくやという具合だ。
学校文化を内側から説明してもらったのもそうだし、人口15万人の都市がかかえる経済格差の問題を教えてもらったこともそうだが、オックスフォードという町がより立体的に見えてきたのが今回の訪問の大きな収穫だった。