この2週間ばかり、大学の公開講座「現代における希望とは」の準備作業、溜りにたまった原稿の執筆、シリーズ第3巻の編集作業などがいっしょくたになって、バタバタの状態が続いている。
少し前のことになるが、日本国際理解教育学会と連携して研究をすすめている学校の一つ、兵庫県立尼崎小田高校の公開授業に参加した。創設した「国際探求科」を舞台に、福田秀志・小林哲先生チームが、TPP問題など、意欲的なテーマの授業に取り組んでいる。
以下は、この秋、「学会会報 vol.45 」(10月31日発行)に書いた「第24回大会・特定課題研究報告」だが、福田先生たちは、ここにでてくる「研究モデルの探究と発信」に踏みこもうとしている。これからどんなコラボが生まれてくるのか、大いに楽しみである。
今期から、研究委員会と実践研究委員会が組織的に合同することになり、これを機に「理論と実践の統合」という学会創設以来の難題に本腰を入れて取り組むことになりました。研究・実践委員会が掲げたテーマは「国際理解教育における教育実践と実践研究」です。
本委員会は、3年間を通して2つの課題に挑戦します。一つは、実践研究のスタンダードの確立で、実践者による当事者研究・臨床的研究のディシプリン(研究の作法)をつくろうというもの。もう一つは、研究モデルの探究と発信で、こちらは実践的研究者としての自立の道筋と研究コミュニティの形成に関する事例研究です。学校・地域の実践に寄り添いながら、公開研究会を開いてその可能性を探っていくことになります。大きな2つの課題は有機的につながっております。
今回の「国際理解教育における実践研究の視座」が最初の提起ということになりますが、3時間のセッションを2部構成で行うことにしました。委員会からの4本の報告(80分)を受けて、参加者が4、5人グループで話し合い、その結果を全体にフィードバックするワークショップの形式です。これも特定課題研究の運営では新機軸になります。
井ノ口貴史氏(京都橘大学)、林敏博氏(名古屋市立蓬来小学校)の司会のもと、研究・実践委員長の嶺井明子氏(筑波大学)の趣旨説明につづき、まず以下のような報告がありました。
杉田かおり氏(筑波大学)の「国際理解教育研究の到達点と課題」では、国際理解教育概念の明確化、グローバル市民と国民の関係性など、本学会創設以来の研究課題を広い視野から分析したうえで、今期の特定課題研究でも、国際理解教育の研究課題の固有性を踏まえた実践研究への取り組みであることが必要だ、と提起されました。
渡部(日本大学)の「国際理解教育における実践研究の視座」では、本学会におけるこれまでの実践研究の特質と実践者自身による実践研究のアポリアとの両面を分析したうえで、これからは実践報告・論文の執筆を組み込んだ「現場での臨床的研究の循環構造」という視点が有効性をもつのではないか、と提案しました。
宇土泰寛氏(椙山女学園大学)の「学校事例にみる実践研究」では、ご自身が校長をつとめる椙山女学園大学附属小学校でのホールスクールアプローチによる学校改革を素材として、職場の変容が、管理職のリード→中核教員のリード→実践研究コミュニティの成立という「3つのステージ」で進行していったことが明らかにされました。
山西優二氏(早稲田大学)の「地域事例にみる実践研究」では、青年のためのフォーラムや教員対象のワークショップなど多様な活動を展開する武蔵野市国際交流協会(MIA)を事例として、地域における学び・教育の実践研究では、実践をつなぐネットワーク、コーディネーターの役割など「5つの視点」が重要ではないか、と指摘されました。
休憩後のワークショップでは、「学校/地域で実践研究をどう進めるのか?」「実践的研究者がどう育つのか?」の二つのトピックでグループ討論を行いました。実践を交流しながらテーマを深めるというスタイルでしたが、参加者のご協力と井ノ口委員の運営よろしきをえて、最後の全体会では全グループから討議報告を聴くことができました。話し合いがきわめて活発だっただけでなく、第1部の4つの提案に対する示唆的な質問・意見をリアルタイムで頂戴できたことも有難いことでした。
最後に、大津和子氏(北海道教育大学)より総括的発言があって、ほぼ定刻にセッションを終えることができました。
好天の奈良での日曜午後のセッション、午前中にはワールドカップ・サッカーのコートジボアール戦もありましたので、参加者数が心配されましたが、それは杞憂でした。ベテラン会員から若手会員まで、大教室がいっぱいになる盛況ぶりだったからです。今後とも、会員の皆様のますますのご参加をお願いいたします。