27日(木曜)にあった獲得研春のセミナー「教育プレゼンテーションの新しい地平」(日本大学文理学部百周年記念館)の余韻が続いている。今回は、参加者全員で“オトナのプレゼンフェスタ”に挑戦した。高校生プレゼンフェスタのおとな版である。発表のテーマは「コミュニケーション・ギャップ」と「ジェネレーション・ギャップ」。
いつもは、こちらが準備したコンテンツでワークショップを提供するのだが、今回は参加者自身がチームを組んで内容を創造する。出会ったばかりのメンバーが、わずか2時間の準備で、リソースルームを使ったリサーチワークから5分間の演劇的プレゼンテーション制作までのステップをこなす。かなりハードルの高いプログラムである。
当然のこと、目標・時間・作業量をどうコントロールするのかというマネージメントの力が問われるし、チームのなかでどこまで自分をだし、どこで妥協するのか、“こころ”のマネージメントも必要になる。
もう一つの高いハードルは、プログラムが三重の入れ子構造になっていることだ。プレゼンフェスタの参加者として制作に打ち込みつつ、同時に自分がこうしたワークショップをファシリテートするとしたらどういう工夫をするのか考えてもらう。それと並行して、獲得研側で用意したプログラムと運営の仕方も評価してもらう。こんな具合だから、高校生たちのように、純粋にテーマに取り組むだけでは済まなくなる。参加者が、ある種の異化作用を感じるプログラムになっているのだ。
予想通り「もっと時間が欲しかった」という声もいくつかでたが、時間の制約がかえってチームの集中力を高める側面もある。2会場にわかれて行った10本の発表は、どれも見事なものだった。
宇治橋祐之さん(NHK放送文化研究所)たちの「渋谷で5時」はハチ公前でのカップルの待ち合わせを素材にしてジェネレーション・ギャップに迫る。メールを駆使してぴったりの時間に落ち合う現代のカップル、事前に電話で待ち合わせの相談をする20年前のカップル、手紙で待ち合わせたが日にちがずれて会えずじまいになってしまった江戸時代のカップル、その3シーンを順番に演じて、最後に「(江戸時代のカップルにとっては)待つ時間こそ幸せでした」という美しい言葉でメッセージを語る。
ただし、プレゼンが今回のセミナーの山場ではない。お互いのプレゼンを見合ってから、2会場の参加者70人が合流し、車座でおこなう「振り返り」がクライマックスである。これが新鮮だった。プレゼンの制作過程を共有した人たちが、その経験をもとに日頃の実践を交流するとあって、おのずと地に足のついたディスカッションになるのだ。
これまで積み上げてきた獲得研側の経験とたくさんのリピーター、こうした条件が揃ってはじめて可能になったプログラムといえるだろう。年月を重ねるなかで、私たちの研究がゆっくりと進展し、それと並行してセミナーそのものも成熟してきたのである。
参加者が高いハードルをクリアするプログラムだったと述べたが、評価の俎板に乗る獲得研メンバーはさらに厳しい条件を背負わされていたことになる。ただ、メーリング・リストにアップされた昨日の記事を読んだら、ファシリテーターのひとり両角桂子さん(ふじみ野高校→所沢北高校)が、「これまでのセミナーとは趣がちがい、とってもスリリングでした。このナマモノ感はクセになるかも」と書いていた。いやはや、どこまでも頼もしいことである。