日別アーカイブ: 2013/06/14

沖縄大学と土田武信先生

『国際感覚ってなんだろう』がときどき入試問題に使われる。ことしも岡山県の公立高校の「国語」で使われたようだ。2003年に沖縄大学の推薦入試の課題図書になったときは、意想外の展開になった。たまたま試験監督をしていた土田武信先生(民法学)が、この文章を読んで大学での講演を依頼してきたのだ。ICU高校の肩書でした最後の講演である。

沖縄大学地域研究所・大学教育研究班が主催する講演会ということだが、FD活動の一環という位置づけらしい。大学教員が高校教師の授業研究に学ぶという姿勢に、沖縄大学の柔軟性がよく表れている。土田さんの提案したタイトルは、「いま、改めて問う 知識注入型授業から獲得型授業へ―「学力低下」問題と「総合学習」の課題―」。かなり力が入っている。ちょうど『世界』に「総合学習に展望はあるか」という論文を書いたあとだったから、それも反映したタイトルになっている。

どうせなら市民にも公開しようという話になり、地元ケーブルテレビのクルーまで陣取って、ちょっと大がかりな催しになった。定年間際の宇井純先生が聴きにきて、賛同のコメントをしてくれたり、新崎盛暉先生(元学長)のご子息と私の教え子が、大学で同じ自転車ツーリング・クラブに入っているのを知ったりと、いろんな出会いがあった。

土田さんは、淡々とした語り口の人だが、すこぶるつきの行動の人でもある。なにしろ1月に私の存在を知って、もう2月には講演会が実現していたのだ。ジュゴンネットワーク沖縄の事務局長をしていて、普天間飛行場の辺野古移転の反対運動に熱心にかかわっている。それで、講演会のあと、住民が座り込みをするテントにも案内してくれた。

辺野古の海を見渡す高台の公園から、開けけた平地にポツンとたつテントがみえる。片足をちょっと引きずるようにして歩く土田さんのあとをついていくと、ニュース映像で何度も目にした場所についた。なかで数人の男女が談笑している。やあやあ、という感じであいさつをすませると、早速メンバーを紹介してくれた。

ちょうど基地の測量問題が緊迫していた時期のことである。海に潜って測量を阻止しようとする側も、政府側にたってそれを排除しようとするダイバーもどちらも地元の住民なのだという。反対派が海底のポイントにしがみついていると、もみあいをするダイバーのなかに、水中で両手を合わせて、すまないと合図を送ってくるものもいたという。陽光を穏やかに照り返す海の底に、本土の政治が沖縄の人々に強いている理不尽な構図がみえてくる。

2005年に、あかり座沖縄公演をやったとき、会場校を沖縄大学にひきうけてもらった。仲立ちしてくれたのが、土田さんで、このときも沖縄尚学高校の先生たちなど、さまざまな出会いを演出してもらった。その土田さんが2010年に亡くなり、私は沖縄に通じる大きなドアを失ってしまった。