書評(3)

『学びを変えるドラマの手法』
渡部淳+獲得型教育研究会(編)(旬報社)

『児童演劇』の600号で本書を紹介したので、似た文章ではつまらないと思い、改めて本書を手にした。

再読して、しみじみとよくできた本だなあ、と思う。とにかく本書全体に神経が行き届き、読者が使いやすいように工夫されているのだ。

例えば、冒頭の〈はじめに〉に、「本書の目的」がある。「ドラマを活用して、深く豊かな学びの世界を開拓しよう、学びをよりいきいきしたものに変革しよう、それが本書の提案である」とある。いたって簡潔明瞭。続いて「ドラマの手法が求められる理由」、「本書の特長」、「本書の構成」、「本書の活用」、「本書の成り立ち」、「執筆の手順」、「獲得研シリーズ」といった項目が並び、それぞれに解説が丁寧に述べてある。

もう少し、細かく紹介してみる。例えば、最初の「第1部コア・アクティビティ」の「1フリーズ・フレーム(静止画)」。3本の「実践編」の前に、「解説編」がある。これがまた懇切丁寧なのだ。まず「フリーズ・フレーム(静止画)とは何なのかについての説明があり、その「特徴」、そして「準備」、「手順」が書いてある。まだある。さらに「・・実践するにあたって・・」の項目があり、「どのような設定場面を選ぶか?」。次に「注意すべき点」があり、ここでは3本の「実践編」について、それぞれの諸注意が述べてある。さらには、「さまざまな教育場面への応用の可能性」まである。

私はこの種の『本』をたくさん見てきたが、こんなに丁寧な『本』に出会ったことはない。初心者を意識して、しつこいくらい(?)丁寧なのだ。まさしく配慮がすみずみまで行き届いている、としか言いようがない。

それは、〈はじめに〉の「執筆の手順」からも窺うことができる。長くなるが、引用する。

「本書の原稿は、基本的に以下の4つのステップで書かれている。第1のステップは、研究会のワークショップで数多くのドラマ・アクティビティを経験すること。第2は、会員がそれらのアクティビティを持ち帰り、自分の持場で実際に活用してみること。第3は、実践の内容をメーリング・リストで報告し、全国にちらばる会員から意見を求めること。そして第4が、これらの経験を踏まえて原稿を進めることである。」

これだけでは終わらない。まだ続く。書き上げられた原稿を編集委員が集約、「どうやったら正確に読者に伝わるかという視点から、さらに内容や表現についての確認・修正を行ない確定原稿となる。」とある。これだけの手順を踏んでいるのだ。ここに「渡部淳+獲得型教育研究会」の基本姿勢、哲学がある。

緻密なのは、全体の構成だけではない。レイアウトも使いやすいように工夫されている。重要度によって、活字の大きさを変えることはもちろんのこと、アミをかけたり、黒ベタ白抜き等々、とにかく読みやすい。

内容が浮かぶ、写真の多用もその1つである。写真が活きているのだ。

私は本書にヒントを得て、今夏刊行した当協会の『保育者が演じてみせるミニ劇脚本集II』(蓑田正治著)の編集の際にも、「カット(絵)ではなく写真を入れよう」と強引に主張。撮影会をわざわざ開き、良い写真が撮れ、それを入れることができた。幸いにも写真が好評で喜んでいる。

「渡部淳+獲得型教育研究会」の方々から、「本筋とは違う!」と怒られそうだが、それだけ多くの示唆を得た『本』であったということで、お許し願いたい。

演劇教育を学校現場等で定着させたいと、多くの偉大な先人たちが演劇教育の普及・向上に情熱を重ねてきたにも関わらず、いまだに確かな手ごたえを感じていないのは、私だけではあるまい。

例えば、本書に「体系化」という言葉がある。なるほど、と思う。演劇教育の「体系化」。演劇教育の、理論の、実践の「体系化」の必要性。そういった「体系化」を、「渡部淳+獲得型教育研究会」の皆さんが果たしてくれるのではないか、ということを期待して紹介を終える。

この原稿の締切日の前日、「渡部淳+獲得型教育研究会」による、本書に続く2冊目の本として、『学びへのウォーミングアップ70の技法』が届いた。目を通すことを楽しみにして……。

日本児童演劇協会事務局長 石坂慎二氏
2012/01/31児童・青少年演劇ジャーナル「げき10」(晩成書房), pp.174-175