書評(1)

『学びを変えるドラマの手法』
渡部淳+獲得型教育研究会(編)(旬報社)

私白身、長年にわたり演劇教育に関わりながら、確かな手ごたえを感じないまま、ここまで来たような気がする。演劇教育を学校現場に定着させたいと努力を重ねてきたものの、まだそれが果たせないのは、学校の頑迷さだけではなく、こちら側の手法の未熟さも大きな原因だろう。

この書は、大雑把にいえば、ドラマ・アクティビティを使って、授業を深く豊かに、いきいきとしたものに変えていこう、と企図した本である。「ドラマ・アクティビティ」とは、「フィクション(虚構)の世界と現実の世界を往復し、身体や五感を駆使して学びを深めていく。この2つの世界を往復するためのツール・約束事」とある。

海外では百種類を超すドラマ技法があるという。まずその中から5つ(事務局注:6つ)を厳選し、「コア(核)」として紹介と実践、次によく使われる技法を、最後の第3部ではそのコンビネーションの紹介と実践である。この書の特長は、まずドラマ技法の紹介があり、その実践が丁寧に報告されていることである。

えてしてこの種の本は、編集者が各パートを執筆者に依頼、それを集めて本にするというのが通例だが、この書はそうではない。

まず研究員自身が研究会で経験し、それを持ち帰り自分の場で実践、さらにそれをメールで報告、会員に意見を求め、それをもとに執筆という4つの段階を経ているのが、まず他書と違うところ。

それだけに、よく練られた、確かな実践を感じさせてくれる。実践だけではなく、この書全体が計算され尽くした感がある。

とにかく、レイアウトのみならず、読みやすく、使いやすいように配慮が行き届いているのだ。

写真が多用されているのも、その一つ。例えば、冒頭の「フリーズ,フレーム(静止画)」の「教師研修で立体絵画づくり」、「綱引き」や「玉入れ」などの写真は見事なもの。イメージを大きく飛躍させてくれる。やはり多くの豊かな実践の証しともいえる。

この書を読み進めていく中、学校への「切り口」として、かなり有効ではないかと思い始め、まさしく「深く豊かな学びの世界が開け」「学びをよりいきいきとしたものに変革」していく書だと、確信するまでに至った。

「隗より始めよ」である。この書を使って、この書の通りに実践してみたらどうか。それに十分に応えられる書である。

日本児童演劇協会事務局長 石坂慎二氏
2010/11/25「児童演劇」No.600, p.1