英国の学校訪問」カテゴリーアーカイブ

ロイヤル・ホロウェイ校の訪問

学年末の慌ただしさで、あちこちにご無沙汰している。ブログの件もそうで、書きたい材料はたくさんあるのだが、何しろアップする時間的余裕がない。

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先日、ロンドン大学のロイヤル・ホロウェイ校にヘレン・ニコルソン教授を訪ねた。もう10年近く前のことだが、ニコルソンさんのワークショップにでて、彼女の知的なファシリテーションに感銘を受けた。中山夏織さん訳の『応用ドラマ―演劇の贈りもの』(而立書房)を読むと、彼女の学術的背景がよくわかる。

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ロイヤル・ホロウェイ校のキャンパスは、ウォータールー駅から急行で30分あまり、最寄り駅からさらにタクシーで5分ばかりいった小高い丘の上にある。建物も立派だが、校内であう学生、あう学生が、みな親切で落ち着いた印象である。

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ひょっとしたら日本の外にある唯一の能楽堂ではないか、という舞台も案内していただいた。ロシア、インドネシアの演劇に関する科目も用意されているというから、ロイヤル・ホロウェイ校のシアター、ドラマ専攻は相当に多文化的なコースである。

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リテラシー重視の教育政策の下で、ドラマ教育を含む芸術系の科目は、イギリスの小中高校、どこでも苦戦を強いられている。学校教育のそうした状況がもうしばらく続いている。

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ただ、同校についていうと、もともとドラマ教師の養成を主としているわけではないので、影響は限定的なものらしい。むしろ、“創造性”をたっぷり身に着けた卒業生たちが、色んなジャンルで活躍している、ということだった。

ヨーク市の高校で

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以前このブログでもちょっと触れたが、1年ほど前に、イアン・デービス教授(ヨーク大学)のアレンジで、2時間続きのドラマ授業を見学した。広大な敷地にモダンな校舎を構えるジョセフ・ラウントリー・スクールのAレベル・ドラマである。(下の写真は、Year8のアッセンブリー、生徒200名)

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この学校が、ドラマ教育、シティズンシップ教育を先進的に実践しているところだとデービス先生から聞いていたが、なるほどそうで、これでは芸術系大学も顔負けだろうというくらいの設備をもつスタジオで授業が行われている。

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Year12のAレベル・ドラマの履修生徒は14人。毎週4、5回授業がある。相当の密度である。ちょうどデバイジングの単元をやっているところで、三つのグループが、それぞれオリジナル作品の制作に励んでいた。

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作品のテーマは、吃音者(の社会的抑圧)、悪夢、エバ・ブラウンの生活である。あいにく担当の先生は不在だったが、自分たちで思い思いにリハーサルを重ね、途中の仕上がり具合をミニ発表で見せてくれた。クラスの様子をUチューブでも発信しているそうで、さすがに手慣れたものである。

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授業のあと、車座になって、6人(うち男子1人)の生徒に40分ばかり話を聞かせてもらった。ドラマを履修したくてこの学校を選んだという子もいたが、その彼女も含めて、大学で演劇を専攻するという子がこのなかにはほとんどいないのだという。詳しく聴いてみると、社会科学2人、音楽2人、ダンス1人で、演劇志望が1人だった。

ではドラマの授業で得られるものはなにかという私の質問に、居心地の良い表現空間が得られる、正解のないテーマに挑戦できる、パッションを表現する仕方が学べる、自分に自信が得られるようになる、友人が増える、ソーシャル・スキルが高まるといったような意見がこもごも返ってきた。(下の写真は、教室の窓から見える風景)

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こうして並べてみると、とくに新しい意見ではない。私がもっとも打たれたのはそのことではなくて、彼らがそれぞれ自分なりの意見をもっていて、それをまっすぐに自分の言葉で語ってくれるところである。この学校が周囲の学校にくらべて特別に恵まれた環境の若者が多いことは彼らの自覚するところだが、そのぶんダイバーシティーが乏しい気がする、とも言っている。

“なんてまあいい子たちなんだろう。”それがこの学校を訪問して、最後に残ったわたしの印象だった。

英国の学校訪問4 複式授業

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Totnesの郊外にある英国国教会系のベリー・ポメロイ小学校(児童数104名)を訪ねた。トットネスは日本でも公開された映画「戦争の馬」の故郷である。

小さなビレッジの中心に石造りの教会があり、そこからちょっと離れたところにこじんまりした校舎がたっている。周囲は一面の牧草地だから、牧草地の中の学校といった方がふさわしいだろう。

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英語を担当するナタリー・ヒッギス先生の授業を、9時から11時までじっくり見せてもらった。レセプション(5歳児)とYear1(6歳児)の複式授業である。大柄なヒッギス先生は生き生きとして豊かな表情の方だ。町なかの大規模な学校で経験をつみ、あえて小さな学校を選んでここに移ってきたという。

雨もようの校庭に整列した子どもたちが、ヒッギス先生に誘導され、寒風といっしょに教室に入ってきた。そのままリソース・ルーム(教室に付属するコート置き場兼小学習室)に直行、教室に戻ってきたら、みなブルーのセーター姿である。

まずは音楽にあわせてリズム体操、それが終わると、教室の4分の1ほどの広さを占めるカーペットコーナーに集まった。各列4人の6列、総計24人の子どもたちである。とってもお行儀がいい。移動に時間がかからないところをみるとあらかじめ席が決まっているようだ。

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最初のプログラムは、野外遠足のスライドをみること。木の枝を組みあわせてつくった遊び場、案内人の活動、川岸の風景、バーベキューサイトなど、当日みたものを順番に写していくのだが、ただスライドを眺めるだけでなく、子どもたちがそのときどんなことをしたのか、そして何に気づいたのか、などを丁寧に言葉にして確認する作業をしている。これが次のプログラムの準備になっている。

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スライド上映会が終わると、2学年が別々の行動になる。レセプション・クラスは、お遊びタイム。Year1は、机に移動して作文の時間である。ノートの上半分に絵を描き、下半分に文章をつける。さっき確認した遠足のできごとを各自で文章にしていくのだ。

フォニックといっていたが、たとえば“ぼくはきのう遠足にいきました”という文章を音でイメージし、それを文字に置き換えていく。ある程度できたら、ヒッギス先生かアシスタントの先生のところへいって添削してもらう。こうした個人作業が繰り返される。

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驚いたのは、学年別の行動への移行がなんともスムーズだったことである。レセプション・クラスの子どもたちでさえそうで、さっそく校庭に飛び出して乗り物にのる子、備え付けの棚からお姫様みたいなドレスを引っぱり出して着る子と、自分たちでてんでに楽しんでいる。電池式のオモチャがピコピコ音を立てている同じ教室で、1年生の子たちは黙々と作文をしている。

“自分で行動できる独立心を育てることが学校の目標になっています”とヒッギス先生がいう通り、早い時期から、自分の行動を自分でマネージする訓練がされているようである。

お遊びタイムが終わると、そうとうに散らかっていた教室の床が、子どもたち自身の手でさっと片付けられたのだった。

英国の学校訪問3 表現意欲

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Brixhamの港を見下ろす住宅地にあるヒューゼアム小学校(児童数293人)は、トーベイ地域の典型的な公立校である。昨年校長に就任したばかりというアダムズ先生の年齢は、40代前半あたりだろうか。総計60人のスタッフの先頭に立って、精力的に校内を駆け回っている。

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学校の玄関を入ると、そのままホールにつながる面白い校舎である。ホールの壁に大きく校訓が貼り出されていて、それを見ると「自分の行動と学びに責任をもとう」と書いてある。きれいなブルーの紙に、オシャレでカラフルな字体で書かれたポスターだとはいっても、こういう校訓をみると、なんだか日本の学校をおもいだしてしまう。

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ナーサリーからYear6まで、アダムズ校長が、全部の授業を案内してくれたのだが、どの授業でもゲストを紹介するだけでは足りず、しきりに生徒たちの間を歩きまわっては「よくやってるね」などと一人ひとりに声をかけている。Year3(8才見当)の授業では、子どもたちがタブレットを使ってエジプトの歴史を調べる様子も見せてもらった。

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きわめつけは、私のために休み時間をつぶしてアッセンブリーを開いてくれたことである。遠来の客が、このヒューゼアム小学校を見学してどう感じたのか、子どもたちにじかにコメントして欲しいというのだ。もちろん受けて立つしかないだろう。

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そこでとりあえず、①日本の学校と違ってベルの合図が一切ないこと、②校舎の掲示物がカラフルでかつ子どもたちの作品がいたるところに展示されていること、③子どもたちが生き生きと学びを楽しんでいるようにみえることなどを、ちょっとした日本語もまじえて話すことにした。

聴き手側の子どもたちの熱心さは相当なものである。「一語も聞きもらすまい」とばかりに集中して聴いてくれるし、こちらのジョークにもちゃんと反応してくるではないか。(写真は、タイタニック号のミニチュア)

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もっと驚いたのは質問タイムで、子どもたちの質問がいっかな途切れないのである。最初のうちこそ、おずおずと数本の手が挙がっただけだったが、「日本で人気のスポーツは?」「学校は何時から始まるの?」などという質問に順番に応えていくうちに、どんどん挙手の数がふえていき、最後は30本も、40本もいっせいに手が挙がるようになった。それも上級生、下級生を問わず、なのである。

これはさすがに日本の全校集会ではみられない光景である。子どもたちの表現意欲の旺盛さに感心したが、それを先生たちが後押ししている。ちゃんと応答することが相手にたいする最大のもてなしだということだろう。

アッセンブリーがはねた後、子どもたちの代表15人ばかりと記念撮影をして学校を後にしたのだが、このときもアダムズ先生にうながされて、子どもたち一人ひとりが私と握手をしにやってきたのだった。

英国の学校訪問2 学校文化

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Paingtonの山手にあるタワーハウス・スクール(小学部40名、中学部35名)は、インデペンデント・スクール(私立校)である。校長のジョーダン先生が、校門でにこやかにゲストを出迎えてくれる。

広い前庭をもつ校舎は1890年につくられた建物が中心にあり、廊下のあちらこちらにきれいなステンドグラスがはまっている。かつて訪ねたBrixhamのグラマーシー・スクールもこういう歴史的建物で、往時の居室を教室として使っていた記憶がある。

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ジョーダン先生は南アフリカの出身である。白人だけの学校で育った経験から、むしろ学校は色んな背景をもつ子どもたちが一緒に学べる場であるべきだと考えている。先生の教育理念に耳をかたむけていたら、校長室に生徒代表の一団とカメラマンがあらわれた。一緒に記念写真を撮るのだという。(校長室で、右がジョーダン先生、左は私の友人のモーデイ氏)

それからキャンパス・ツアーである。ジョーダン先生にくっついて授業中の教室に入っていくと、たとえどんな状況であっても、生徒全員が即座に起立して出迎えてくれる。みごとなものである。じつに躾が行きとどいている。

ややあって、先生が厳かにゲストを紹介し、担当の先生と短い会話を交わす。こういう習慣の学校があるのは知っているが、どの教室でもこれを繰り返すうちに、なんだか少々申し訳ない気がしてきた。

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少人数の学校とあって、ミルソン先生が指導するYear6(11才)の「ドラマ」のクラスも受講者3人である。そろそろ一本の作品が完成に向かっているらしい。参観したときは、リハーサルの最中だった。

黒板に図示されたプロットをみると、首相暗殺と金品強奪がからんだアクション満載のお芝居である。マスクの演技の静かな場面から、一転して背景のボードを巧みに活かした追いかけっこの場面になる。1人何役もこなすので大変忙しい。

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ミルソン先生によると、完成した作品をビデオに収め、それをみながら振り返りをする予定なのだという。暴力と金をテーマにしたドラマとあって、最終的にはモラルの問題について生徒と話し合うらしい。

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驚いたのは、先生が一通りアドバイスすると、演技はもちろん照明器具の操作から撮影まで、全部自分たちでやってしまうことだ。八面六臂の活躍である。

受講者7人のGCSEドラマのクラスもみせてもらったが、こちらでも生徒たちが効果音の創作をしていた。なるほどドラマの授業は、限られた時間で、段取りよく作業をすすめる訓練の場でもあるようだ。(写真は演技指導するミルソン先生)

タワーハウス・スクールは、恵まれた環境の学校といっていいだろう。一般の公立学校とは明らかにちがう学校文化をもっていて、それがすみずみにいきわたっている。とりわけ校長先生のリーダーシップにそれが象徴されているように感じた。

英国の学校訪問1 ブック・デーに遭遇

英国デボン州のトーベイ地域に通うようになってかれこれ15年たつ。ここまで続いたら、もう定点観測といっていいだろう。今回は小学校の英語教育がテーマで、まったくタイプのちがう4つの学校を訪問した。

それにしてもデボン州は遠い。自宅をでてからドア・トウ・ドアで丸24時間かかった。ヒースロー空港からパディントン駅に移動、そこからグレートウェスタン鉄道で3時間、ニュートンアボット駅につくと、友人が車で迎えにきてくれる。いつもはロンドンで1~2泊してから現地入りするので、今回の旅程は強行軍である。

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Brixhamにあるセント・マーガレット小学校(児童数100人)は、カトリック系の学校で、とりわけ読書教育に力をいれている。Torquayなど遠方の町から、カープールで通っている子もいるらしい。

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お昼休みに学校の受付にいったら、なんとデスクに高学年の子どもが二人ちょこんと座っているではないか。一人の子は片耳に大きなイヤリングをしている。スタッフの子どもでも遊びにきているのかと思ったが、どうもそうではないらしい。子どもに責任感をもたせるためのプログラムの一環なのだという。

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この日は、ブック・デーということで、スーパーマンやらハリー・ポッターやら、本の登場人物の扮装をした子どもたちが、学校中を元気にかけまわっている。郵便配達員の格好をしたモリス先生のレセプション・クラス(5才児見当)にいったら、先生の読み聞かせのあと、ペアになった子どもたちが自分たちで選んだ本を読むコーナーになった。

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私の相方のヤコブくんは、バットマンである。彼と「世界の行事」をパラパラめくりながらおしゃべりしたところ、この服はお父さんと買いにいったのだという。そうとう自慢らしく、しっかりポーズも決めてくれる。

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そのあと、校長先生の案内でキャンパスツアー、全部の授業を訪ね、スタッフルームで障碍児教育の専門家にも紹介された。他校ではお目にかからないが、小さなホールの一角に、クッションをたくさん並べたコーナーがある。豆電球の照明までついている。感情が高ぶったり、情緒不安定になったりした子が、先生とゆったりすわって気持ちを和らげるための空間なのだという。ちょっとしたことだが、このあたりに学校の理念が反映されているように感じる。

セント・マーガレット小学校は、自然体というのだろうか、全体に力が抜けていて、ゆったりした印象の学校である。教室も適度に雑然としていて、それがまた親しみやすい雰囲気のもとになっているようだ。

ドラマとシティズンシップ

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土曜日に開く獲得研セミナー「日英におけるドラマ教育とシティズンシップ教育」の準備が着々と進行している。池野範男先生(広島大学)が中心になって進めている研究プロジェクトの一環だ。

昨日は、英国チームの二人が成田空港から私の「教育学演習」に直行し、ワークショップに参加してくれた。3年生のゼミ(30人)だが、学生たちも新しいゲストを迎えて大喜び。この日のテーマが、「繋がりを感じる」とあって、「人間と鏡」やら「白紙の見立て」で短いシーンをつくるやらのペアワークを、みんなと一緒に楽しんだ。

座高円寺 010今日は、杉並の座高円寺を見学させてもらった。地域の劇場の見学は、もともと英国側の希望である。というのも、オックスフォード大学のヴェルダ・エリオットさんが、地域劇場と連携して、さまざまな理由で就学に困難を抱える若者たちを劇場に招じ入れて彼らの活躍の場をつくる、シティズンシップ教育の共同研究をしているからだ。

去年、そのペガサス劇場を見学させてもらった。そこはオックスフォード市の住宅街の真ん中にある小さくて居心地のいい劇場だった。ミュージカルやドラマの役者として演技をするチームはもちろん、脚本執筆、衣装、照明と音響チームなど、さまざまなコースを用意している。若者が自分の関心に応じて制作にかかわり、創造的な活動のなかで自己肯定感をたかめ、社会参加の準備を進めるためである。

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座高円寺では、企画・広報担当の森直子さんと企画・制作チーフの石井惠さんに、劇場の概要案内からバックステージ・ツアーまで、タップリ2時間ガイドしてもらった。コンペで選ばれた伊藤豊雄作品だというが、広々と開放的なエントランスからしてワクワクするような美しさがある。この劇場は、公演のないときでも、いつも市民に開かれている。

なにより、劇場のコンセプトが素敵だ。できるだけルールをつくらず、町なかの空き地のようにひらかれた公共空間としての劇場をめざしているのだという。そこに人が集まり、散っていく中で、自然に新しい文化がうまれることが期待されているようだ。

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だから、演劇公演だけでなく、劇場前の広場をつかった“座の市”、阿波踊りの練習、商店街の文化祭、年間80回にものぼる子どものワークショップなど、じつに多様な出会いの場が用意されている。ちなみに、杉並区の小学校4年生(約3千人)は、毎年、無料でお芝居を観る。

劇場の運営は、指定管理者であるNPOと芸術監督の佐藤信さんと杉並区の三者協議でされているのだそうだ。なるほど、スタッフの方々の意欲と創意はもちろんだが、地域の人々と行政の支えがあってこそ、こんなユニークな活動が継続できているのだろう。

それで土曜日のことだが、日英の専門家が集まって、ドラマ教育とシティズンシップ教育の架橋を目指すシンポジウムを開くのは、おそらく初めてである。さてどんな展開になるのか、いまから楽しみである。

オックスフォードのたたずまい

エクセター・カレッジ

エクセター・カレッジ

ハリー・ダニエルズ教授(教育デパートメント)のインタビューを終えてから、研究チームのメンバーの1人ベルダ・エリオットさんが、エクセター・カレッジを案内してくれた。エクセター・カレッジは大学都市の中心部にあるカレッジで、以前にも一度訪ねたことがある。

プレートにも歴史が

プレートにも歴史が

1314年の設立というから700年の歴史があり、オックスフォード大学にある40近いカレッジのなかでも5番目に古いところだ。エリオットさんは大学院時代をここで過ごした。「博物館のなかで勉強しているようなものです」というが、まさにそんな感じだろう。教会、食堂、学寮、庭がセットになった佇まいがいかにも美しい。

エクセター・カレッジの教会

エクセター・カレッジの教会

学生数600人、そのうちの半分が大学院生らしい。教員の数は?と聞いたら、「さあ、学生2人に教員1人という見当でしょうか」という。もちろんチュートリアル制度について知ってはいるが、こんな答えをきくと改めてその贅沢さが実感される。

オックスフォード大学の訪問は3回目だが、今回に限って、なんだか懐かしい感じがした。どうしてだろうと考えているうち、ついこのあいだ来たように思っていたのは勘違いで、10年ぶりの訪問だということに気がついた。

カレッジの端っこがラドクリフ・カメラ(ボードリアン・ライブラリーの閲覧室)に接している

カレッジの端っこがラドクリフ・カメラ(ボードリアン・ライブラリーの閲覧室)に接している

2004年の夏はロンドンからレンタカーを運転してやってきた。一方通行の多さに苦労してようやくホテルにつき、まずはアテネ・オリンピックの結果を知りたいと思った。しかし、どういうことだろう。いくらチャンネルを変えても、やっているのはヨットと馬場馬術ばかりである。一向に全体像がわからないだけでなく、ニュース映像で、女子マラソン期待の星ラドクリフ選手が途中棄権する場面ばかり何十回もみせられた。野口みずき選手が金メダルをとったことを、ずっと後になって知ったほどである。

ボードリアン・ライブラリー

ボードリアン・ライブラリー

ことほど左様に、イギリスの放送局は他国選手の活躍に興味がないようだ。しかし、変われば変わるものである。2008年の北京オリンピックのときは状況が一変していた。あらゆる競技の結果をテレビで知ることができるようになったのだ。ロンドン・オリンピックを控えて、国民の啓蒙をはじめたというところだろうか。

セント・ヒルダ・カレッジ 右手の建物の1階に食堂

セント・ヒルダ・カレッジ 右手の建物の1階に食堂

前回はオックスフォードに3泊し、セント・メアリー教会の塔に登ったり、植物園を散策したり、クライスト・チャーチの夕拝に参加したりとゆっくり見学できた。もちろんカレッジもたくさんのぞいた。そのときの光景が10年かけて心の中にゆっくり沈殿していき、今回の訪問で、懐かしさの感覚をともなって甦ったものらしい。

エリオットさんのガイドが素晴らしかった。彼女は学部がケンブリッジ大学で、女子ラグビー部のプロップだったというから頼もしい。所属するセント・ヒルダ・カレッジで、昼食をご馳走になった。2007年まで女子カレッジだったそうで、言われてみれば、どことなく津田塾大学や東京女子大学を思わせる静かな佇まいである。ファカルティーは食堂の上段、学生は下段のテーブルで食事をするから、ハリー・ポッターもかくやという具合だ。

学校文化を内側から説明してもらったのもそうだし、人口15万人の都市がかかえる経済格差の問題を教えてもらったこともそうだが、オックスフォードという町がより立体的に見えてきたのが今回の訪問の大きな収穫だった。

オックスフォード大学、ヨーク大学へ

1週間のイギリス出張から帰った。ロンドン、オックスフォード、ヨーク、どの町もクリスマス・ムードで華やいでいる。学校はクリスマス休暇前の最終週だそうで、やはりなんとなくワクワクムードである。

トラファルガー広場にも大きなツリーが

トラファルガー広場にも大きなツリーが

出張のきっかけは池野範男教授(広島大学)とイアン・デービス教授(ヨーク大学)のあいだで「日英におけるシティズンシップ教育とドラマ教育」という共同研究の構想がもちあがったことだ。お二人は日英を代表するシティズンシップ教育の研究者である。私にドラマ教育の分野で声をかけてくれたのだが、興味深いテーマだから、喜んで参加させてもらうことにした。

日本側メンバーは、池野先生、深澤広明先生(広島大学教授)と私の3人。池野先生とははじめてだが、深澤先生とは、日本教育方法学会で「演劇的手法/演劇的知」について長年一緒にラウンドテーブルを運営している。今回のツアーには、この3人の他に、深澤先生が指導する修士課程の院生・佐藤雄一郎さんも参加した。

書店・ハッチャーズのディスプレイ

書店・ハッチャーズのディスプレイ

今回のいちばんの目的は、両国のメンバーが集まって研究内容のすりあわせをすることである。問題関心のつながるイギリス側の研究者たちと、膝をつきあわせてディスカッションできたのが何よりよかった。セミナーとあわせて、オックスフォードでは、地域の若者を巻き込んで多彩な創造活動をしているペガサス劇場、ヨークでは、シティズンシップ教育とドラマ教育に先進的に取り組んでいるジョセフ・ラウントリー・スクールをそれぞれ見学させてもらった。

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ジョセフ・ラウントリー・スクールでは、Aレベルのドラマ授業(Year12)に参加してから、次の1時間、車座になって彼らの問題関心をじっくりインタビューできた。学校側のもてなしは大変なもので、20人ばかりの生徒会役員が総出で、お茶の会をやってくれた。そのときの様子が、地元紙の「ザ・ヨーク・プレス」に載っている。

取材に来た記者の話では、もともとヨークシャー自体が広いところで、その全域をカバーするヨーク・プレスも、海岸部から内陸部まで、取材エリアがとても広いのだという。イギリスを代表する女優ジュディ・デンチがこの地方の出身で、里帰りインタビューを書いたから同日の掲載になるかも知れないよ、と私たちを大いに喜ばせてくれた。ただ、残念ながらそうならなかった。この日のトップは、地元郵便局の臨時職員の女性が、1千万円ばかり使いこんで、カリブ海ツアーなどの遊興費にあてていたという記事である。被害にあった局長夫妻が、写真入りで切々と窮状を述べている。

ロンドン、オックスフォードに各1泊、ヨークに3泊とかなり慌ただしく移動を繰り返した。最終日も、朝から12時までヨーク大学の教員とPHDコースの院生の発表を聴いてから、タクシーに飛び乗った。ヨーク駅、キングスクロス駅、パディントン駅経由でヒースロー空港まで行って、なんとか夕方の飛行機に間に合った。

いつもイギリスは1人でいくので、もう少し時間に余裕をもって動いている。ただ、忙しくはあったが、その分自然に良いチームワークもでき、充実した出張になった。