獲得研のこと」カテゴリーアーカイブ

石井英真氏×渡辺貴裕氏の対論

獲得研のHPで報告されているが、12月例会で、石井英真(京都大学大学院准教授)、渡辺貴裕(東京学芸大学教職大学院准教授)両氏の対論があった。いま教育方法学の分野で、もっとも勢いのある40代の研究者たちが「研究する教師×省察する教師」をテーマに語り合ったのだ。

獲得研会員の渡辺貴裕さんの仲介で実現した企画である。お二人はいずれも田中耕二先生の門下生で、学生のころから京都大学の教育方法学研究室で刺激しあって研究を進めてきたらしい。

「教科する授業」など独自の用語やフレームをつくって自在に語る石井さんとご自身の実践を軸に具体的事例を通して省察の概念を深める貴裕さんの研究スタイルの違いがクッキリ見えて、実に楽しい会だった。

両者に共通しているのは、ご自身の理論を、学術論文だけでなく一般書の出版に結びつけて展開していく仕方である。年明けに渡辺氏がだした『授業づくりの考え方』(くろしお出版)にも、貴裕さんの研究スタイルがよく表れている。

学生の模擬授業を素材にして「授業づくりの考え方とそのための学び方の獲得」について考えるこの本は、読みやすいだけでなく、たくらみも満載である。小2から小6まで10の模擬授業を素材にして、大学4年生5人(明くん、咲希さん・・・)が語り合い、教師(わたあめ先生なるキャラクターで登場)が絶妙の距離感でアドバイスする。

わたあめ先生の理論的解説と具体的事例とが間然しない書きぶりになっているところに、著者のなみなみならぬ力量がでている。大学の授業実践をベースにしたこの本は、教育方法学における「当事者研究」の新しい成果といってよいだろう。

13回目の新春合宿

今年も成功裏に新春合宿を終えることができた。プログラムは、初日が2本の研究報告―小宅さん・日大一高、宮崎さん・弘前大学―と「獲得研のこれまでとこれから」をテーマにしたディスカッション、そして2日目が恒例の「オトナのプレゼンフェスタ」である。

今回のフェスタは「葛飾北斎の人間と芸術に迫る」というテーマで、早川さんを中心に「すみだ北斎美術館」とのコラボ企画になった。

すみだ北斎美術館は、2016年に開館したばかりとあって、最新のテクノロジーを駆使した展示が特徴であることはもちろん、教育プログラムに力をいれている美術館でもある。

施設見学のあと、東京スポーツ文化館にもどって、発表が行われた。(下の写真:美術館への移動中 院生の蔡くん撮影)

第1グループは、北斎漫画の成り立ちを素材として、北斎の教育者としての側面に光をあてた作品。

第2グループは、90歳まで画業を追求し続けた画狂人・北斎が、人生の節目節目にどう行動したかに注目した作品。

第3グループは、屈原をテーマとする作品の成立過程を手掛かりに、北斎の国際性を描いた作品。

第4グループは、「神奈川沖浪裏図」そのものを擬人化し、絵の側から世界をみると・・・という作品。

できあがったプレゼンは、どれも見応えのあるもので、合宿コーディネーターの初海さんから「これほど粒揃いの作品が並んだのは初めてではないか」という感想がでた。

すみだ北斎美術館館長の橋本先生と学芸員の古藤さんの含蓄に富むコメントからも大いに啓発されて、なるほど博学連携とはこういうことか、と改めて実感できた。

お二人に「年明け早々から合宿とは」と驚かれたが、そう言われてみると、正月合宿が13年間も続いていること自体たしかに驚異的だなあ、と思えてくる。

私にとっては、獲得研の新しい側面が毎年どんどん開発され続けていることの方が、さらに面白いことではあるのだが。

11回目の新春合宿

早いもので獲得研の正月合宿も11回を数える。今回から新しいプログラムが2つ加わった。

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1つは、3月28日(火)に予定されている「高校生プレゼンフェスタ」の予行演習だ。本番は「江東区深川江戸資料館」(江東区文化コミュニティ財団)の展示資料を使い、その場で“(仮)海外に伝えたい江戸のクール”を共通テーマにした演劇的プレゼンをつくる。今回は、そのシミュレーションをやってみようというのだ。

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天保年間の深川佐賀町の街並みを再現した展示会場をタップリ案内してもらったあと、合宿所に戻って5分間の発表をつくった。

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いまどきの高校生の生活と江戸庶民の暮らしではちょっと距離がありすぎやしないか、まして発表を創るとなると難しいのではないか、という危惧もでた。ただ、やってみると色んなアプローチができる。

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それで、大家さんが朝木戸を開けてから夜閉めるまで、長屋の人々の助け合いの暮らしぶりを描いた『初午の前』、タイムスリップした日英の若い女の子2人が、チョキ船の船頭や長唄の師匠から、自然と親しむ暮らしが現代につながっていることを学ぶ『今に生きる江戸の暮らし』、時代を隔てた2組の男女の生態を交互に演じて、果たしてどちらの暮らしがより豊かなのかと観客になげかける『シングルライフ ~今と昔~』という3本の発表ができた。

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これらの発表を、本番で展示解説をしてくださる深川江戸資料館の小張洋子さんにも楽しんでいただいた。高校生プレゼンフェスタの本番まではあと2か月、企画のイメージを資料館の方々とすり合わせる作業が、これからしばらく続くことになる。

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もう1つの新企画がオトナの「聞き書き甲子園」である。こちらは髙﨑彰、初海茂、三宅典子の各会員にそれぞれのライフコースを語ってもらい、その語りをもとに聞き書きグループが3本の演劇的プレゼンをつくるもの。

人に歴史あり。ひとは自分の人生のどこにポイントをおいて語り、聞き手はそれをどう受け止めて表現するのか。こちらのプログラムでも、時間の制約が作り手の集中力と緊張感をいやがうえにも高めて、実に興味深い3つの切り口のドラマが生まれたのだった。

プログラムが余りに充実していたせいだろう。帰りの電車でウトウトしてしまい、あやうく所沢駅を乗り過ごしそうになった。

松下佳代先生との対話

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土曜日は、松下佳代先生(京都大学・高等教育開発推進センター教授)と獲得研メンバーの対話集会だった。松下先生の提唱するディープ・アクティブラーニングと獲得型学習の接点を探る試みである。

今回は、回を重ねて第107回定例会。これまで何人もの講師を例会にお招きしたが、今回のように対話という形式をとるのは初めてだ。

実はこの春も松下先生に「大学院特別講義」をお願いしていて、そのときは教育学専攻はじまって以来という数の聴衆が集まった。有り難いことではあったが、おかげで先生とゆっくり対話する時間がとれず、今回の例会で仕切り直すことになった。

松下先生は、「深さ」を追求する学習論の系譜として、①深い学習、②深い理解、③深い関与という3つの流れがあると整理したうえで、ディープ・アクティブラーニングと獲得型学習の接点が、③の「深い関与」というところにあるのではないかと指摘してくださっている。

学びというものを認知の世界だけにとどめて考えるのではなく、認知・情動・身体をホリスティックに捉えて、学習者が“対象世界にひたる”ことを重視する、そこに両者の共通点を見出すというのである。

松下先生のこの提起からはじまった対話は、学習指導要領をめぐる動向、教師論、能力論、評価論、内容論と方法論の関わりなど多岐にわたって展開し、あっという間の3時間だった。

対話を終えて、松下先生の謙虚で誠実な研究者としての姿勢が強く印象に残った。それと同時に、今回の対話集会が“私たちの取り組みの今”を確認するまたとない機会となったし、獲得研にとってまさに”エポック・メーキングな一日だったなあ”と感じている。

大嶽部屋の朝稽古

新春合宿のプレゼンフェスタ、今回は素材が大相撲、テーマは「海外に伝えたいクールジャパン」である。いつもの通り、当日あつめた資料を使って半即興プレゼンを創る。

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まず深川の大鵬道場・大嶽部屋を訪ねて早朝稽古を見学した。大嶽部屋は、いつもラマダンのことが話題になるあの大砂嵐関が所属する部屋で、大横綱・大鵬の大きな絵が、土俵を見つめている。大砂嵐関はいなかったが8人の力士の稽古をみせてもらった。つぎに両国の国技館まで歩いて相撲博物館を見学し、それから新木場の宿舎に戻った。あとは2時間ほどでプレゼンをつくる。

なんといっても早朝稽古の印象が圧倒的だった。身体と身体が真正面からぶつかり合う稽古の迫力は相当なものである。四股にはじまり、テッポウ、腕立て伏せ、すり足、ぶつかり稽古、申し合いという流れを一通りみせてもらった。

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すり足までいくころには、力士の背中から汗が吹き出し、そのぶん、びんつけ油のにおいもいっそう強くなったように感じた。ところが、ぶつかり稽古、申し合いまで進むと、もはやそんな感傷どころではなくなる。ひょっとして力士のだれかが過呼吸で倒れやしないか、とハラハラするほどの激しい展開だからである。若手力士たちは、みな全身に砂がべったりとはりついている。見ている間にも、2人が鼻血をだし、1人が軽い脳震盪をおこした。

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感心させられたのは、先輩が後輩を指導するシステムが実によくできていることだ。ぶつかり稽古でいえば、後輩たちが、まず土俵に塩を撒いて「次おねがいします」と稽古の順番待ちの意志を示す。申し合いが白熱してくると、しばしば二人の若手が同時に塩を撒いて土俵にはいってきてしまう。もちろん激しい稽古ではあるのだが、ただ激しいだけではない。むしろ流れるようにプログラムが進んでいくので、そこに一種の様式美さえ感じるようになるから不思議である。

見学を終えて「実際に稽古をみると、これからテレビを観るときの見方が変わるよね」という声がでたが、それほどインパクトがある。実際、3つのグループのプレゼンのうち2つまで、朝みた稽古風景を取り入れた発表になった。テーマも、一方が「間のとり方」、もう一方が「立ち合いの(阿吽の)呼吸」という具合に重なっている。

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(写真:国技館は、初場所を目前にひかえて色とりどりの幟が林立し、じつに華やいだ雰囲気である。外国人観光客もたくさんきていた。)

正月のプレゼンフェスタは、去年まで「第5福竜丸」「東京大空襲」と重いテーマが続いたが、今回の「大相撲」でもう一つ新しい境地が開かれたようである。

灯台下暗し。会員の小松理津子先生が、なんと尾車部屋のベテラン力士・豪風関を金足農林高校の教師時代に教えたことがある、と知った。

 

100回目の定例会

今年も獲得研の新春合宿(1月4日―5日)の準備をしながら年を越した。暖冬とあって、わが家の庭では、サザンカとマンリョウ、そしてユリの花が一緒に咲いている。こんなことははじめてである。

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獲得研の共同研究をはじめてからこの春で満10年になる。こんどが10回目の合宿、定例会で数えると100回目の集まりである。この間に、研究成果を5冊の本として刊行することができた。開拓的な分野の仕事とあって、1冊刊行にこぎつけるだけでも膨大な時間がかかる。それを考えるにつけ、よくぞまあと思う。

出版活動と並行して、会員の自己研修と研究成果の普及のために全国各地で“あかり座”公演を続けている。この過程で、じつに様々な出会いを重ねてきた。これからでる獲得研の刊行物には、こうしたあかり座公演での経験が色濃く反映されていくことになるだろう。

これまであえて組織を大きくせず、小さな研究コミュニティーを維持する方針をとってきた。それだからこそ、意志決定が早く、機動性に富み、また研究テーマの継続性も担保できたと考えている。しかし、ただ小規模だから良いというわけではないし、それだけでは研究会のこれまでの活力を説明することができない。私のみるところ、活発な研究活動の背景の一つに、メンバー構成の問題があるように思う。

獲得研のメンバーを見ていると、それぞれに粒だった個性をもつ人たちだが、それでいて自分のやり方を変えることを恐れず、既存の枠組みを問い直すこともけっして怠らない、そういう柔軟な発想の持ち主がとりわけ多いように思う。思考実験大歓迎。言うところの“面白がり”の集まりが獲得研であり、これが自由闊達なディスカッションを生む土壌になっていると感じる。

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こんどの新春合宿では、高校生プレゼンフェスタのふり返り、あかり座徳島公演、第3巻の普及、春のセミナー、第4期のビジョンなど、盛りだくさんのプログラムが用意されている。「オトナのプレゼンフェスタ」に関連して相撲部屋の訪問も用意されているらしい。(写真は英国の友人から届いたe-カード)

100回目の区切りとなる今回の合宿が、研究内容の面でも転機になるという予感がある。さてどんなディスカッションができるのか、いまから大いに楽しみである。

価値発見力―岡田庄生さんのセミナー

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獲得研のオープンセミナーで、いま注目の若手経営コンサルタント・岡田庄生氏(博報堂ブランドデザインコンサルタント ICU高校の卒業生)の講演をみんなで経験した。ワークショップを組み込んだ「価値発見力~つい買いたくなる商品の『価値』の見つけ方~」という講演である。

岡田さんによると、価値発見にむかうステップは、①具体的事実・行動から考える、②人の「気持ち」に変換して考える、③象徴的な一言に絞り込むの3つだという。

今回は、私に気を遣って「獲得型コンサルティング」という言い方をしてくれたのだが、推測するに、岡田さんの仕事の進め方のポイントは、企業の関係者が、自分の企業の価値を自分で発見することにあるようだ。

それで私たち参加者も、「夏の甲子園」「鍋料理」などを例に、その独自の価値をさぐっていく経験をした。また、コンテスト形式で「あげパン」のミニ広告づくりもやった。その場で、あげパンのいろんな広告文ができたが、なかでも「ふた口あげパン、ぐっと牛乳」が多くの参加者の支持を集めた。こんな具合で、終始笑いの絶えない、考える楽しさの横溢する講演会だった。

ご本人が長い時間をかけて到達したであろう知見を、参加者が短い時間で追経験できるように工夫している。みごとなものである。

岡田さんの私への気遣いが、もう一つあった。私がICU高校の卒業アルバムに書いた一言コメント「今 見ヨ イツ 見ルモ」(柳宗悦 心偈)を、わざわざデータにして取り寄せ、スライドで見せてくれたことだ。柳は「一切の真なるものは、今見る時にのみ、残りなく、その姿を現してくれる。それは即今に見ることであり、真に見ることは、この即今以外の出来事ではない」と解説している。すっかり忘れていたが、あの頃は、柳のこの偈をよく書いていたのだった。

来年1月に徳島あかり座公演が予定されているので、早速、岡田さんから学んだ「3つのステップ」を応用してみようと相談している。徳島大学の留学生や市民の方たちと獲得研のメンバーのコラボで、「多文化共生のまちづくり」のビジョンを演劇的プレゼンテーションで表現する試みである。

さてどんな風に展開されるのか、これもまた見ものである。

現場生成型の研修プログラム

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獲得研の第99回定例会で、北海道大谷室蘭高校の藤田真理子先生から「『進路学習』への取り組み」と題する報告があった。藤田さんは、進路指導部長20年というキャリアの方だが、今年度、学校設定科目の「進路学習」(3年生、2単位、週1回・2時間続きの授業)を立ち上げた。

生徒たちは、「学校給食」「室蘭市はどんな町であることが望ましいか」「18歳選挙権」といったテーマで、毎回、グループワークやディスカッションに取り組み、広い視野から進路を考えている。私の思い込みかもしれないが、“ただ自分のためだけでなく、だれかの役に立つ仕事をするにはどうすればいいか”を生徒に意識してもらうことが、進路指導の基調テーマになっていると感じた。

生徒の振り返りシートを読ませてもらうと、彼らがホームルームクラスの壁をこえて、語り合い、多様な見方を獲得していく様子がよく分かる。30代から60代の6名の教師で、このチャレンジングな授業をやっている。ことに興味深く感じたのは、この授業が、事前の打ち合わせや振り返りを通して、教師チームが自ら獲得型授業の研修を行う入れ子構造のプログラムになっていることだ。

これまでいくつも藤田真理子先生の創意あふれる実践にふれてきたが、おそらくこの「進路学習」が藤田実践の集大成ではないか。獲得研の第4期の課題である現場生成型の「(自己)研修プログラムの開発」というテーマにもピタリと重なる。聴いていてワクワク感を禁じ得なかった。

朝に雪の北海道を発った藤田さんは、獲得研の例会で報告を済ませると、京都に向かって風のように去って行った。相変わらずのエネルギッシュさである。いまごろ冬晴れの京都の街頭で、全国高校駅伝の応援に声をからしてしていることだろう。

年末の風景

八国山 002

今日は穏やかな一日で、書斎の窓から八国山の黄葉がいい具合にみえている。年内の授業も残すところ1週間。さすがに先がみえてきた印象だ。

それで初海事務局長と相談し、獲得研の第4期(2015‐17年度)のビジョンを再検討し、今のうちに、もう少しイメージの共有を進める作業をしようという話になった。

今秋、シリーズ第3巻『教育プレゼンテーション』の刊行に漕ぎつけたことで、ようやく研究会の第1の課題である「アクティビティの体系化」の目途がついた。ここまでくるのに早いもので10年かかっている。

これから引き続きシリーズ第4巻の刊行準備にかかるのだが、研究会の活動としては、第2の課題である「教師研修プログラムの開発」の比重が、これまで以上に高くなる。

それはとりもなおさず研究の公開性をたかめ、「あかり座」公演を活発化することと表裏の関係にある。直近では、早速、来年1月の徳島大学公演が待っている。これからますます獲得研は“旅する教師たち”のグループだという性格が強まることだろう。

研究会にどう新しいメンバーを迎え入れられるのか、そのプランの検討も始まっている。

『教育プレゼンテーション』の刊行なる

15回プレゼンフェスタ 001このところの忙しさで、記事のアップが間遠になってしまった。学術関係のイベントが多く書きたいことはあるのだが、いかんせん文章にする時間がない。獲得研の初海さんには「元気だねえ」と言われるが、ただスケジュールに追われているだけである。

それはともかくとして、やっと獲得研シリーズの第3巻『教育プレゼンテーション―目的・技法・実践』ができた。質量ともにズッシリした印象の本で、手に取った人の評判もなかなかのようだ。カバーデザインもとても気に入っている。

「あとがき」には、以下のような文章を書いた。

本書の刊行に、4年の歳月を要した。では、どのようにしてできあがったのか。獲得型教育研究会(略称:獲得研)の研究スタイルの説明も兼ねて、ここでは本書の成り立ちについて簡単に紹介させていただこう。

第1部でもふれたが、獲得研は、「アクティビティの体系化」と「教師研修プログラムの開発」という2つの大きな目的をもっている。その達成のために、ワークショップでアクティビティの汎用性を検討したり、実際の授業にアクティビティを導入してその結果を検証したりする、という作業をたゆまず続けてきた。

本書の刊行準備は、2011年の夏にはじまった。獲得研シリーズの第2巻『学びへのウォーミングアップ』の刊行と相前後して、先行研究の調査をスタートさせたのである。

最初の山場が、2012年の新春合宿のときにやってきた。出版のコンセプトを、みんなで議論したときのことだ。とりわけ焦点になったのが、数あるアクティビティの中のどれを本書に収録し、それらをどんなカテゴリーで分類するのか、という点である。

あれやこれや色々な案がでて、紆余曲折があったが、最終的には「表現活動の三つのモード」(ことば、もの、身体)に対応するカテゴリーで章立てする、という案に落ち着いた。このカテゴリーこそ、獲得研の共同研究のオリジナリティを示すものだからである。

ここでの話し合いを契機として、つぎのステージに入った。①収録するアクティビティの絞り込み→②編集委員による「解説編」のラフ原稿作成→③「実践編」の執筆担当者決定→④執筆担当者による試行実践+実践報告→⑤原稿執筆、という流れである。

この間のプロセスでもっとも特徴的なのは、③の段階で、執筆担当者をエントリー方式で決めたことである。執筆してみたいと思うアクティビティに対して、会員が自分の判断で手を挙げる方式だ。もちろん項目によっては重複エントリーが生じるので、それなりの調整は必要である。しかし、ともかくも会員の自発性に依拠して執筆担当者を決める、とした点がポイントである。

こうして初稿が出揃ったのが、2014年の秋のこと、この段階までで3年が経過している。そこから更に1年かけて、原稿の改訂と「コラム」の追加を含む編集作業を続け、ようやく刊行に漕ぎつけることができた。

獲得研では、創設から足かけ10年の間に、97回の定例研究会をもち、5000通を超えるメールのやりとりを会員同士で重ねてきた。このことが象徴する通り、私たちがコツコツやってきた「アクティビティの体系化」という仕事は、辞書をつくるのにも似たとても地味な作業であり、いわば民主的な市民社会を形成するための基礎作業である。ただ、それこそが私たちのミッションだと思い定めている。

2020年の学習指導要領の改訂に向けて、アクティブ・ラーニングが、にわかに注目を集めている。今回は、90年代の「ディベート・ブーム」の時のような、特定の技法への注目とは違い、学習システムの改革を視野に入れている点で、時代の変化をより切実に反映している。アクティブ・ラーニングに注目が集まるのは喜ばしいことなのだが、ただ私たちのこれまでの経験からして、アクティビティの普及なしには、おそらくアクティブ・ラーニングの定着も難しいだろう、と考えている。

その意味で、私たちの研究もいよいよ正念場を迎えている。「せっかく未開拓の領域に踏みだしたのだから、とにかく行けるところまでいってみようよ」、そんなことをメンバーで語り合いながら、これまでと同様、これからもアクティビティ研究を続けていくことになる。