月別アーカイブ: 8月 2019

邸宅(庭園)にかける情熱

一週間ぶりにロンドンに戻った。今回のテーマの一つは英国庭園である。トーベイでは、なんといってもクリスティーのグリーンウェイが有名だが、こことナショナルトラストが管理するもう一つの庭園であるコールトン・フィッシュエーカー(Coleton Fishacre)の2か所を見学した。

コールトン・フィッシュエーカーは、はじめて訪問した場所だったこともあって、ことさら印象に残った。1920年代から30年代に、10数年かけて大きな谷を丸ごと開発した別荘である。

つくったのは、サボイホテルの経営者でオペラ劇団(例のミカドを上演した劇団)のマネージャーだったRupert D’Oyly Carte の家族だ。

石造りの建物は、全館みごとにアール・デコ様式で統一されている。


1920年代、造営当初の記録写真をみると、20エーカーもあるただの大きな牧草地である。


ここに仮設のレールを引き、谷底から石を運びあげて、石段と建物を作った。谷底に水流をうがち、いくつかの池もつくっている。なんだか凄いエネルギーのかけかただ。

われわれにいわゆる庭とみえるのは、広い芝生にウォールガーデンがついたWellington’s Wall and Bowling Green Lawn と小さな水流の源付近にあるThe Rill Gardenくらいなものである。

あとは谷の両側の傾斜を利用した雄大な散策路(=庭)といった方が適当だろう。

散策路がまっすぐに海に駆け下る谷の両側にあるため、歩き回るのに相応の脚力がいる。


その代わり、巨大なチューリップ・ツリーがそびえたつ広場や海上に浮かぶ小島を見下ろす四阿など、変化に富む景観が楽しめる。


水際にモミジが連なっているかと思えば大きな杉の木が林立していたり、はては金魚が遊ぶ睡蓮の池やササヤブまであるから、なんだか親しみさえも感じる。


自然の力がもちろん大きいが、たった100年の間に、これだけ味わい深い空間ができていくのだから、歴代の住み手たちが、この邸宅にどれほどの情熱を注いできたことだろう。

こうしてみると、景観というものが、時間をかけて育てていくものだということがよく分かる。

 

トーキー博物館

英国南西部のデボン州にあるトーキー博物館を久しぶりに訪ねた。2008年に、ここで「日本におけるアガサ・クリスティー」と題する講演をして以来だから、11年ぶりということになる。


バンクホリデーということもあって、ヨットハーバーのあたりは、わんわんの人だかりだが、ほんの5分坂を登ってきただけで、このあたりは閑散としている。

どうもロンドンを離れると、フレンドリーな人の率が高くなる気がする。今朝もブリクサムのバスセンターに立っていたら、これからダートマスにいくという84歳の元気なご老人に握手を求められた。ちょっと驚いたが、こちらの友人の解釈によると「ようこそブリクサムへ」という歓迎の気持ちだろうという。

博物館の人たちもことごとく親切である。ミュージアム・カフェのマスターが、ブラスバンドのトロンボーン奏者だそうで、クリーム・ティー(これが美味しい)のミルクやお湯をさかんに追加してくれる。

こちらがクリスティーに興味がありそうと見るや、ナショナル・トラストのグリーンウェイ(彼女の別荘)でボランティアをしている人を紹介してくれた。

この人がまた話好きで、聞けば、ロンドン生まれのロンドン育ち、IT企業で働いて、大西洋をビジネスクラスで往復する仕事をしていたらしいが、40代でスパッと辞めて、ボランティア暮らしをしているのだという。日本人にはちょっと考えにくいライフ・スタイルである。

時間に余裕があるせいなのか、土地柄がそうさせるのか、あるいはそういう人が集まってくるからなのか、ともかくフレンドリーな人によく出会う。

トーベイ(トーキー、ペイントン、ブリクサムあたりの総称)には何度か来ているが、なるほどここはイングリッシュ・リビエラだわい、と今回改めて感じたことだった。

Ryeー中世の面影を残す町

ロンドンを離れて、しばらくは英国の南東部、南西部の町々を訪ねる。昨日は、ロンドン・ビクトリア駅から南東に2時間ほど、イースト・エセックスにある町ライについた。


14世紀の建物があることで知られるが、丘上にある町全体が、中世以来の様々な様式の建築物で彩られている。17世紀に作られたグラマー・スクール(現在はレコード店)もある。どうも英国人の郷愁を誘う町らしく、年配の観光客が多い印象である。

駅に降りると、まずは地図を入手するのだが、インフォメーションが見当たらない。窓口に一人ぽつねんと座っている駅員さんが、フリー・タウンマップと書かれた手描きの地図のコピーをくれた。

ホテルは、駅から斜面をあがって徒歩5分。そこがもう観光スポットの中心地付近である。それほど小さな町だ。

部屋に入って最初に感じたのは「まいったなあ。観光シーズンに、観光地の真ん中に飛び込んでしまった」ということ。案内されたのは、一人旅に似つかわしくない大きくてロマンチックな部屋である。

建物の2階正面に位置し、張り出しスペースにベランダまでついている。あまつさえ昼間からシャンデリアが燦然と輝いている。前の通りをぞろぞろ観光客が通るから、なんだかショーウィンドーのなかで暮らすような具合である。

しかし、夜になると嘘のように人影がぱたりと途絶えた。こうなると丘の上の静かなホテルである。それで、以前、津和野の町に泊まった時のことを思い出した。

そのかわり、朝の散歩が素晴らしい。人っ子一人いない町を歩いていると、昼間は見えなかった、建物の細部や街並みのつながり具合がとても良く分かる。

それで、人ごみの多い昼間をさけ、朝と夕方の見学に時間を割くことにした。

そうなると現金なもので、こういう部屋も悪くないなあ、という気がしてくる。なにしろシャンデリアが無闇に明るいので、夜中でも仕事ができる。バスルームにいたっては、ひょっとしてロンドンで泊まっている宿の部屋より広いのではないか。

窓外の景色が素晴らしい。眼下に芝生の広い公園、その向こうにライ繁栄の礎となる海運を支えたRother川、さらにその向こうに、羊のいる牧場が果てしなく続いている。


なんだかもうしばらく滞在してもいいなあ、なんて思うようになってくるのだから、勝手なものである。

 

藤光先生宅を訪問

ロンドンの藤光先生のお宅で、施さんの手料理をごちそうになった。テーマは「初秋」。中華料理をベースに、和洋中が融合した独特の世界観をもつ全7品の料理だ。

パリでもそうだったが、地元食材を徹底的に探索し、そこから料理のイメージを膨らませるらしい。

今回も、地元のエビに上海から持ち込んだ白茶の風味をきかせて仕上げた料理、西洋のクワイと数々のキノコをとりあわせた炒め物、カモ肉のローストに味噌ベースのソースをあわせた一皿などが次々に登場する。デザートには手作りのコンポートがつく。いずれも絶品である。

たった一人の来客のために料理に名前をつけ、手書きのメニューを添える。茶の心に通じるもてなしである。

実は、ロンドンに落ち着いた途端、日ごろの疲れがドッと出て、食欲までなくしていた。

ところが、施さんのお料理を食べ進むうち、自然に身体が整ってくるように感じるから不思議である。

今朝から、食欲もちゃんと戻っていた。

にほんご人フォーラム2019ベトナム

昨日、ロンドンの宿についた。気温は18度、冷たい雨が降っている。「大変危険な暑さ」という日本とは20度近い開きがある。

8月の初めは、フォーラムの仕事でダナンにいた。アジア6か国の生徒が、「ふるさと」をテーマに演劇的発表を創る。

マレーシア以来の参加だが、さすがに2012年から続く事業とあって、プロジェクト自体が成熟しているで驚いた。4つの混成チームを、ベトナムの先生たちがファシリテートしている。

ご朱印船の遺跡が残る世界遺産の街・ホイアンでの取材が組み込まれている。観光客をターゲットにした語学学習もさかんらしく、小学校の生徒・先生に英語でインタビューされた。

久しぶりに横田先生、金田先生とのチームが復活したのも嬉しいことだったが、今回審査をご一緒したベトナム国立文化大学のチャン先生から、現地の教育事情を詳しくうかがえたのも貴重な経験になった。

第14回獲得研夏のセミナー

2カ月間、ブログのアップもままならず、そのまま夏に突入してしまった。忙しさがいまも続いている。

8月7日(水)のセミナーに合わせて、6日にベトナムから帰国した。

それにしても、8本のワークショップは壮観だった。実力も経験も十分なメンバーばかりだから、参加した方々の満足度ももちろん高い。

このままのパッケージで全国行脚をしたら、相当なインパクトになりそうだ。

午前の全体会では、若手の2人-小菅さんのウォーミングアップ、小宅さんの実践報告-が大活躍。これまで壮年のメンバーを中心にプログラムを組んできたが、そうか、教育学科の卒業生が活躍する時代になったんだ、という感慨があった。

今回は、ICU高校の卒業生・ペレラ柴田奈津子さん(ロンドン大学)と数10年ぶりの再会、人生の出会いの不思議をあらためて実感したセミナーでもあった。

間もなく欧州出張にでるので、今夏はとりわけハードな日程になっている。