月別アーカイブ: 3月 2019

第18回高校生プレゼンフェスタ

3月26日に江東区の深川江戸資料館で、第18回高校生プレゼンフェスタ「江戸・東京のくらし再発見」があった。今回も8校から集まった30人の高校生が、6チームに分かれて半即興型のプレゼン作りに挑戦した。

深川江戸資料館は年間10万人(うち海外の旅行者1万人)の来場者がある下町巡りの人気スポットである。

この施設との連携は3回目になる。さすがにここまで経験を重ねると、フェスタを運営する獲得研と資料館の間の意思疎通もきわめてスムーズである。

もともと高校生の来場者比率が低いこともあり、その分生徒たちの熱心な反応が、案内してくださるガイドの方たちにも新鮮に映るのだという。

獲得研の側から見ると、博学連携のこのプログラムは、インターハイスクールの交流活動という側面とプログラムを運営する教員自身の研修プログラムの側面という2つの要素を含んでいる。

教員研修の視点からみると、今回も「拍手回し」を創造的に応用した宮崎充治氏(弘前大学)のウォーミングアップ、参加者を巻き込んでプログラムを解説する藤牧朗氏(目黒学院)のガイダンスに、新工夫が施されていた。

教員デモンストレーションは、落語「長屋の花見」をアレンジしたニュースショー形式の発表である。両角桂子氏(所沢北高校)の脚本に、卵1個が現在の価格で400円相当だったという情報などが盛り込まれていて、なるほどと感じ入った。

参加生徒の特徴ということでいえば、もっとも緊張する集合のときから、もう和やかで柔らかい雰囲気を醸しだしていたことがある。

また発表形式の特徴としては、クイズの要素を入れて観客を巻き込む工夫がとくに目立った。似通った形式が多い分、それぞれのチームが発表空間をどうデザインするのか、そのバリエーションが際立ってきて、それも面白かった。

資料館側の全面協力もあって、ハンズオン資料が、発表本番で例年になくたくさん使われたのも今回のフェスタの特徴である。

これまでプレゼン・フェスタの運営にかかわる様々な知見を蓄積してきたが、今回は、例えばイギリスであかり座公演をやるときにこれまでの経験をどう活かせるのか、そんなことに考えながら見ていた。

つまりは日本で開発したプロジェクト学習の方法を海外で実践してみるということなのだが、その実現は、プレゼン・フェスタのもつ可能性に今までとは違った角度から照明をあてることにつながるのではないか、そんな風に感じたことだった。

多文化主義の退潮

イアン・デービス先生(ヨーク大学)から、イギリスで多文化主義が語られなくなったという話があったが、Brexitをめぐる推移をみるにつけて、なるほどと実感できる。

スミス・スクエアにあるヨーロッパハウスを、藤光由子先生のアレンジで見学して、その感をさらに深くした。

階段ホールに、EUの歴代委員長の肖像が掲げられているこのビルは、ルーフトップバルコニーから、ビクトリアタワーやウェストミンスター寺院が間近に望める、まさにロンドンの中心地である。

しかも、ギャラリーと会議場を備えたこの建物は、もともと保守党の所有だったもので、サッチャ―政権が成立したときの記者会見は、まさにこの場所で行われたのだという。このあたり、ヨーロッパハウスに対するEU側の力の入れようが推し量られる。

案内してくれたポール・ケイさんは、ブリュッセルの本部から派遣され、英国に多言語主義を定着させるため、さまざまな企画展を開いたり、パンフレットを編集したりという役割を担ってきた方だが、3月中にこのオフィスをたたんで、ブリュッセルに帰ることになっているのだという。

Brexitは一時的に延期となっているが、さて8月の訪問のときにはどうなっているのか、目が離せない。 –

オックスフォード大学の授業

先日、オックスフォード大学のオリエンタル・インスティテュートで、1年生の日本語クラスを見学させてもらった。担当の西澤芳織先生は、昨年のパリ研修会の参加者である。受講生6人という恵まれた規模で、そのなかに日本語学習歴6年の学生も混じっている。

左が金田先生、右が藤光先生

 この日のテーマは敬語だが、西澤先生の進め方がすこぶる面白い。アルフォンス・デーケンさん、弦念丸呈(ツルネン・マルテイ)さんなどの文章を素材にしてペアワークをやるのだ。作家本人に「なった」学生に、インタビュアー役の学生が質問し、内容を立体的に描き出す。ドラマ技法の「ホット・シーティング」を使った授業である。

3組のペアがそれぞれ会話を終えたところで、「嘘も方便」と「本音と建て前」の境界はどこだろう、という議論になった。ゲストのわれわれも意見を求められたが、さすがに不意をつかれた論点で、思わず知らず熱い議論にまきこまれる結果になった。

後列中央が西澤先生

 ディスカッションを通して気がついたのが、学生たちの背景の多様性である。6人のなかに、フランス系、ルーマニア系、中国系、スコットランド系、日系の学生がいる。議論しているうちにごく自然に比較文化論になっていくので、これがまたなんとも楽しい。

 授業の後、旧知の金田智子先生(学習院大学教授 サバティカルで滞在中)が、発表を担当する研究会にも飛び入り参加させてもらったので、これまでのオックスフォード大学訪問とはまた一味違う展開になった。