竹内好春『本を作って60年―その楽しさときびしさ』

「本を楽しもう会」の竹内好春さん(岩波書店OB)から、自分史『本を作って60年―その楽しさときびしさ』(私家版 142頁)をいただいた。

竹内さんは、1950年に岩波書店に入社、出版部・製作課で本づくりをしていた方だ。製作の仕事というのは、「造本の決定、印刷・製本所への的確な指示と、進行管理を行うこと」らしい。

この本は、ご自身が制作にかかわった作品を編年体で紹介し、その説明として函やカバーのデザイン写真(37頁)と付録(本文組み、図版頁の例 33頁)をつけたものである。いかにも製作畑の人らしく、仕事の軌跡で自分を語るユニークな自分史になっている。

 収載された本のラインナップをみると、古今東西にわたるテーマと言い、文系・理系を問わぬ著者と言い、まさに壮観である。私自身がお世話になった本もたくさん含まれている。

とりわけ印象に残る本には、短いコメントやエピソードが添えてある。せいぜい10行ほどだが、そこに失敗談も人間観察もあってこれが滅法面白い。味わい深いアンソロジー集の趣なのだ。

2003年の『岩波講座 天皇と王権を考える 9・生活世界とフォークロア』(全10冊)にはこんなコメントがある。ちょっと長いが、製作の仕事が分かるので、そのまま引用してみよう。

新刊本の「校了」は、毎回神経を集中する。あらかじめ確認すべき事項がすでに整理されているので、それにしたがって作業を進める。タイトル・著訳者名(新字・旧字に注意)、ページノンブル、柱、改丁・改頁などの確認。目次と本文の照合。その際前付け、後付けはとくに注意する。はしがきが、はじめに、になっていたり、索引が、人名索引になっていたりすることがよくある。大きな文字の誤りに気づかないことがよくある、要注意だ。基本は確実なものと照合することである。これらを終わった後、一休みし、ぼんやりする。このぼんやりが大変大事だ。最後にもう一度、初めから終わりまで、ゆっくり眺めて、「校了」の朱印を捺す。
やがて印刷が終わり、一部抜きが届く。その一部抜きで、全頁もう一度、書名、著者名など、校了時に行った確認作業や、刷の調子などを丁寧に見る。終わりはたいてい奥付を注意深く点検することである。いままでいったいどのくらい奥付をみてきたか。
私は、本を創った人、作った人、造った人、つくった人、そしてツクッタ人が、みんな奥付に集まっているように思う。

通読して、なるほど岩波書店の出版文化というものが、竹内さんのような人たちに支えられて成り立ってきたのか、と想像することができた。同時に、これまでもっぱら著者として本づくりをしてきたが、本というものが、一体どれだけたくさんの人たちの努力でつくられているものなのか、改めて考えさせられた。

どうやら座右の書が一冊、増えたようである。

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