月別アーカイブ: 8月 2018

新潟の町屋の庭―旧小澤家住宅

これも少し前のことになるが、新潟市内の庭園をみてまわった。

北前船の関係では、明治の初めから回船経営にのりだしたという旧小澤家住宅が印象に残った。

旧小澤家住宅は、新潟市内を代表する町屋建築である。主屋は1880年(明治13)の大火の直後の建設、この写真の新座敷と庭は1909年(明治42)ころのものだという。

500坪弱の敷地に延べ床面積260坪ほどの建物(母屋や土蔵など)がたっている。

とりわけ印象に残ったのは、サイズ感のほどの良さである。庭と建物のバランスも私の感覚にはピッタリきた。

いま手もとに資料がないので、定かではないが、クロマツの植栽を主にした平庭で、ざっと20本ばかりの松が植わっていたように思う。

庭の面積に比して松の本数が多い印象だが、小ぶりの良く手入れされた松が多いので、邪魔にはならない。

紀州石、御影石、佐渡赤玉石など、北前船で運ばれてきたという庭石があちこちに置かれているが、こちらの方もウルサイほどの数ではない。全体にほどが良いのである。

京都の町屋でいえば石泉院町(平安神宮の南)にある並河靖之七宝記念館の庭など、きわめて洗練されたサイズ感をもつ庭が思い浮かぶ。

ただ、この旧小澤家住宅の庭についていえば、洗練さのなかに新潟の地域性というものも感じられて、別種の趣のあるものだった。

妻有アート・トリエンナーレ2018

今夏は、金足農業が甲子園で大活躍した。テレビのインタビューなどにも物おじせず、実にハキハキとこたえている。キラキラネームの球児たちを通して秋田を再発見する、そんな不思議な体験だった。

先週のことだが、現代アートが好きなワイフにうながされて、「妻有アート・トリエンナーレ2018」にいってみた。

(以下の写真は、十日町の旧真田小学校)

東京23区よりも広い地域にアート作品が散らばっていて、実に面白かった。

あちこち訪ね歩くうちに、訪問者がいやおうなく地域の暮らしに思いをはせる仕掛けになっている。

新潟県南魚沼郡といえばやはり鈴木牧之の『北越雪譜』のイメージが強い。今回は妻有の6つの地区のうち十日町、津南、松之山の3つをみて歩いた。

はじめて訪れる場所で予備知識がないぶん、新発見も多い。

とりわけ廃校を活用した「絵本と木の実の美術館」(十日町の旧真田小学校)で長い時間を過ごした。

田島征三さんの作品世界が、校舎の壁を突き抜けて野外にまでひろがっている。

アーサー・ビナードさんとの「まむし」の合作もウィットに富んで秀逸である。

今回は、爽やかな風が吹く季節の訪問である。ただ、コンクリートで1階分かさ上げした3階建ての家々、深い河岸段丘とそれを囲む山々の景色をみながら、数々のトンネルを車で走り抜けるうち、冬場の暮らしの厳しさも自然に感得させられた。

(下の写真は、清津峡渓谷トンネル)

所沢に戻ってみたら、意外に車を走らせている。2日間の走行距離が480キロになっていた。

3度目の津山

岡山県内の商業高校の研修会「平成30年度 マーケティング分野生徒対象研修会」(委員長:歳森隆夫・笠岡商業校長)が、8月2日、3日に津山商業高校であった。たった半日で「取材―プラン作り―発表」というプロジェクト学習の全プロセスを生徒が体験する、文字通り“半即興型プレゼンづくり”のプログラムである。

今回も、現地ではじめて出会った生徒たちが、その場でチームを組んで伝統的建造物群保存地区に指定されている城下町を取材して歩き、インタビューなどの結果を素材にして観光ビジネスプランづくりに挑戦した。

(下の写真。今年の滞在も「割烹 宇ら島」。津山商業・片岡先生ご推薦の宿ということで初年度からお世話になっている。地元食材を活かした美味しい料理と若女将・中村未和さんの細やかな気配りが光る。)

豪雨災害を経験した後で、しかも鉄道の不通箇所がまだ残っている状態での開催である。もともとの参加校が多くなかったうえに、直前のキャンセルも続いたらしい。そんなこんなで、例年より参加者が少ない分、より実験的な色合いの濃いプログラムになった。

その1つは、2日間を通して、各校混成チームで活動したことだ。初日の発表をさらにブラッシュアップし、2日目により完成度の高い発表を目指す2段階の方式である。

例年は、初日に混成チームで活動し、2日目は各学校が自分の地域の観光プランを発表していた。秋のコンテストに向けた準備が、もうこの研修会から始まっていたことになる。

2つ目が、生徒チームの活動と並行して、引率教師チームもプレゼンづくりに挑戦したことだ。先生たちの発表は、さすがに手慣れていて安定感が抜群だったから、その自然な語り口が生徒チームのよいお手本になった。

ただ、意外な弱点も露呈した。手慣れている分、ついつい説明が長くなってしまい、発表時間の大幅超過につながったのだ。

3つ目が、昨年までこの研修会の委員長だった槇野滋子先生(岡山大学教授)が、今回は、私とのコンビでファシリテーター役をしてくださったことだ。どちらかというと見守る側だった槇野先生が、直接進行に加わることで、新しく見えてきたこともたくさんあったらしい。

私の場合も、毎回新しい気づきがあるが、今回とくに印象深かったのは、複数年にまたがって運営に携わってくれた先生たちの口から、この研修会での経験を学校に持ち帰って、自分独自の実践につなげてみたい、という意欲が語られたことに関連している。

半即興プレゼンをつくるというプロジェクト学習の研修は、生徒だけでなく、先生たちにとっても新しいタイプの研修である。

それだけに、単発の企画として実施するだけでなく、同じコンセプトの研修会を継続実施することで、企画・引率する教師の側にもこうした学習の意義と指導方法がより深いレベルで伝わる可能性がある、そのことを実感したのである。

研修会を終えたら、津山駅でJRの列車に乗りこみ鳥取空港経由で帰京する、そんな予定にしていたのだが、当日になっても津山―智頭間の路線は復旧せず、申し訳ないことに、智頭まで自動車で送ってもらう仕儀になった。

おかげで、思いがけずゆったりした山越えドライブを楽しむことができたのだが。

第13回夏のセミナー終了

台風13号の接近で開催が少し危ぶまれた時もあったが、今年もほぼ100人規模のセミナーが実現した。

本格的なふり返りの作業はこれからだが、私の印象としては、朝一番の「全体会」と最後のプログラムである「終わりのつどい」の充実ぶりが、今回の成功を象徴していたように思う。

初発に国際会議場であった「全体会」。藤光由子氏(パリ日本文化会館・日本語教育アドバイザー)の報告「第2回全仏高校生日本語プレゼンテーション発表会」は、構成といい資料の豊富さといい語り口といい、じつに見事なものだった。

(下の写真はウォーミングアップ担当の両角桂子氏)

最近こんなに内容の濃い事例発表に出会った記憶がない。その理由は、おそらく藤光先生が獲得型教育のエッセンスを完全に自分のものにしたうえで、その理論を創造的に応用していることからきている。

(下の写真が藤光氏の報告風景)

藤光報告だけでも聞きたい、といって参加された日大大学院の保坂敏子教授やNHKディレクターの草谷緑さんが、大満足で帰られたことにそれが良く示されている。

例年通り、今回も8本のワークショップ(午前4本・午後4本)があったが、ほとんどのセッションで、新しいテーマにチャレンジしたせいだろう、参加者の方々の様子も、その挑戦に呼応するかのように生き生きとしてみえた。

(下の写真はワークショップ中の1コマ)

「終わりのつどい」の方も盛況で、学事出版編集部の戸田幸子さんをして、こんなにたくさんの人が、こんなになごやかな雰囲気を醸しだしている会にでたことがない、と言わしめるものだった

(下の写真は、吉田・武田チームのワークショップ)

「終わりのつどい」でみせる宮崎充治氏(弘前大学)の伸びやかな司会ぶりも、もはやテッパンの域である。

これから各ワークショップのふり返りやアンケートの分析がまとまり、8月中に開かれる運営委員会、9月定例会での検討をへて、今回のセミナーの全体像がようやく見えてくることになる。

ただ、嬉しいことに、現時点でも、国内・国外から参加した方々の満足度がとても高かったという手ごたえがある。

(下の写真は、ヨーロッパ各国と台湾から参加された先生たち)

 

さすがに13回目ともなると、初海茂事務局長の調整のもとで、プログラムの進行も流れるようにスムーズだった。

このことから、セミナーを運営する獲得研側のチームワークも、いよいよ成熟の域に達してきたことが分かる。