パリのドライバー(2)

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空港までタクシーを呼んでもらった。パリにつく妻を迎えに行くのだ。指定した時間は午前4時。あたりは真っ暗である。5分前にフロントに下りていくと、もうドライバーが車の外に立っていた。

頭髪がわたしよりちょっと薄く恰幅がいい。やわらかい笑顔でおっとりした印象の人だ。一瞥したところ、体重はわたしの倍、おなか周りはおそらく3倍ある。「ボンジュール!」。いいドライバーがきてくれたものだ。

ところが思いがけずきびきびした運転をする。どうしてこんな道を選ぶのかわからないが、人の気配のない裏通りを疾駆し、赤信号では「キキッ」という感じで止まる。信号が青に変わった瞬間、こんどはすごいスピードで走りだす。

やがて車はセーヌ川を越え、川沿いの道を走り、見覚えのある片道3車線の広い道路にでた。小さく開けた窓から入ってくる風切り音がどんどん大きくなり、スピード・メーターの針があっという間に140キロに達した。

おいおい大丈夫か。追い越し車線ばかり走り、そのままの勢いで空港まで走り通した。おかげで私の足は床を踏ん張り通しである。

空港の建物が見えてホッとしたところに、次の危機がきた。到着ターミナルへの入口が分からないという。そんな馬鹿な。時間が早すぎてターミナルの入口がまだ閉鎖されているらしい。車は「第2ターミナルE」と「第2ターミナルF」の間の周回道路を、カーレースよろしく5、6回ばかりも周りつづける。

私の方がよっぽど動揺していたのだろう。やっと駐車スペースをみつけ、いざ清算しようとしたら、もってきたはずの財布が見つからない。さては、財布を部屋のセーフティ・ボックスにいれたままだったか。これはさすがにまずい。一難去ってまた一難である。さてどうしたものか。

ところが件のドライバー氏が、少しも慌てずこういうではないか。「そんなこともあるよ。大丈夫、ここはパリだ」。うわ、かっこいい。

こんなにたっぷりした体型の人がこんなに俊敏に動くのかというぐらい、さっさと到着ロビーまでわたしを先導して歩き、妻の荷物をひったくるとたちまち駐車場まで運び、後はなにごともなかったかのように、ホテルまで送り届けてくれた。

「いつでも連絡ちょうだい」。小さな紙片に電話番号をなぐり書きして渡すと、中年ドライバーのデービッド氏は、白みかけたパリの街に颯爽と消えて行ったのだった。

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