黒田泰蔵さんの壺

黒田泰蔵さんの白磁には、どれも作家の研ぎ澄まされた感性が息づいている。食卓で、ふだんどちらかといえば民芸系の器をつかうことが多いが、それでも黒田さんの鉢は果物を盛ったりするのに重宝している。

ただ、いちばん気に入っている黒田さんの壺にかぎっては、家のどこにおいてもどうもしっくりこない。床の間においたり、玄関においたりといろいろ試したのだが、どこにおいても一向にところを得た感じがしないのである。

この壺は、私自身の“焼物熱”が盛んだった15年余りまえに求めたものだが、すっかり焼物熱のさめたいまでも好きな作品だから余計にこまる。ところが今日、“そうだ、あれにのせたらどうだろう”とひとつのアイディアがうかんだ。それで古い小さな箱をひっぱりだして、その上にくだんの壺をのせてみたところこれがなかなか良いではないか。それがこの写真である。

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この黒い箱は、秋田の実家からもってきたもので、もともと肝煎文書などの古文書が入っていた箱である。蓋裏をみると安政6年と墨書してある。ということは1859年(安政の大獄の翌年)製ということになるから150年以上前のものだ。さすがに木地もいたんでぼろぼろになっているが、黒田さんの壺をのせると、なんとなくなじんでしまうところが面白い。

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これからはくれぐれも陶磁器を買うのをひかえるようにと妻から厳命されている。それで、ああこういう風に、すでにもっているものを組み合わせて楽しむ仕方もあるのか、と妙に納得してしまったことだった。

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