このところの忙しさで、記事のアップが間遠になってしまった。学術関係のイベントが多く書きたいことはあるのだが、いかんせん文章にする時間がない。獲得研の初海さんには「元気だねえ」と言われるが、ただスケジュールに追われているだけである。
それはともかくとして、やっと獲得研シリーズの第3巻『教育プレゼンテーション―目的・技法・実践』ができた。質量ともにズッシリした印象の本で、手に取った人の評判もなかなかのようだ。カバーデザインもとても気に入っている。
「あとがき」には、以下のような文章を書いた。
本書の刊行に、4年の歳月を要した。では、どのようにしてできあがったのか。獲得型教育研究会(略称:獲得研)の研究スタイルの説明も兼ねて、ここでは本書の成り立ちについて簡単に紹介させていただこう。
第1部でもふれたが、獲得研は、「アクティビティの体系化」と「教師研修プログラムの開発」という2つの大きな目的をもっている。その達成のために、ワークショップでアクティビティの汎用性を検討したり、実際の授業にアクティビティを導入してその結果を検証したりする、という作業をたゆまず続けてきた。
本書の刊行準備は、2011年の夏にはじまった。獲得研シリーズの第2巻『学びへのウォーミングアップ』の刊行と相前後して、先行研究の調査をスタートさせたのである。
最初の山場が、2012年の新春合宿のときにやってきた。出版のコンセプトを、みんなで議論したときのことだ。とりわけ焦点になったのが、数あるアクティビティの中のどれを本書に収録し、それらをどんなカテゴリーで分類するのか、という点である。
あれやこれや色々な案がでて、紆余曲折があったが、最終的には「表現活動の三つのモード」(ことば、もの、身体)に対応するカテゴリーで章立てする、という案に落ち着いた。このカテゴリーこそ、獲得研の共同研究のオリジナリティを示すものだからである。
ここでの話し合いを契機として、つぎのステージに入った。①収録するアクティビティの絞り込み→②編集委員による「解説編」のラフ原稿作成→③「実践編」の執筆担当者決定→④執筆担当者による試行実践+実践報告→⑤原稿執筆、という流れである。
この間のプロセスでもっとも特徴的なのは、③の段階で、執筆担当者をエントリー方式で決めたことである。執筆してみたいと思うアクティビティに対して、会員が自分の判断で手を挙げる方式だ。もちろん項目によっては重複エントリーが生じるので、それなりの調整は必要である。しかし、ともかくも会員の自発性に依拠して執筆担当者を決める、とした点がポイントである。
こうして初稿が出揃ったのが、2014年の秋のこと、この段階までで3年が経過している。そこから更に1年かけて、原稿の改訂と「コラム」の追加を含む編集作業を続け、ようやく刊行に漕ぎつけることができた。
獲得研では、創設から足かけ10年の間に、97回の定例研究会をもち、5000通を超えるメールのやりとりを会員同士で重ねてきた。このことが象徴する通り、私たちがコツコツやってきた「アクティビティの体系化」という仕事は、辞書をつくるのにも似たとても地味な作業であり、いわば民主的な市民社会を形成するための基礎作業である。ただ、それこそが私たちのミッションだと思い定めている。
2020年の学習指導要領の改訂に向けて、アクティブ・ラーニングが、にわかに注目を集めている。今回は、90年代の「ディベート・ブーム」の時のような、特定の技法への注目とは違い、学習システムの改革を視野に入れている点で、時代の変化をより切実に反映している。アクティブ・ラーニングに注目が集まるのは喜ばしいことなのだが、ただ私たちのこれまでの経験からして、アクティビティの普及なしには、おそらくアクティブ・ラーニングの定着も難しいだろう、と考えている。
その意味で、私たちの研究もいよいよ正念場を迎えている。「せっかく未開拓の領域に踏みだしたのだから、とにかく行けるところまでいってみようよ」、そんなことをメンバーで語り合いながら、これまでと同様、これからもアクティビティ研究を続けていくことになる。