今月は、週末ごとにある学会・研究会のお役が4週間続き、昨日でやっと一段落した。
少し前のことになるが、出版NPO「本をたのしもう会」が企画した「前進座・嵐圭史・講演と朗読 平家物語の魅力」(6月6日 武蔵野公会堂)が圧巻だった。
二つある。一つは、もちろん75歳になった嵐圭史さんの朗読の迫力である。私はどうしても「子午線の祀り」の第3次公演(1985)、第4次公演(1990)で観た新中納言知盛の嵐さんを思い出してしまう。宇野重吉のナレーション、山本安英、観世栄夫、滝沢修らにかこまれた知盛がひときわ若々しく見えたが、その嵐さんもさすがに御大の雰囲気である。
7年かけて『平家物語』全12巻の完全朗読(CD29枚)をした方だけあって、講演のテキスト・クリティークが精緻である。物語中、“往生の素懐をとげる”と書かれた男性は1人もなく、みな女性である、などの興味深い知見が随所にちりばめられている。
一人の役者が、偶然にひとつの役と巡り合い、それを契機に、ゆっくりと長い時間をかけて人間的成熟への歩みをはじめる、今回の講演からそんなイメージが浮かんだ。
もう一つの圧巻は、嵐さんの人気のほどである。会で募集を開始するや、たちまち350席が満席。急遽、7月に追加公演をすることになった。
それにしても平家物語はいい。平家没落の物語にふれる人は、否応もなく、人間の運命ということについて考えさせられる。嵐さんが、源氏物語ではなくもっと平家物語に注目して欲しい、と強調しているが、大賛成である。