4月の深夜、たまたまクローズアップ現代「”宗派を越えて”清水寺1200年の歴史」の再放送をみた。10年がかりで完成した「清水寺平成縁起絵巻」(箱崎陸昌筆、全9巻、画寸全長6507cm、手織り絹に裏彩色)の公開記念特集である。
武田富美子先生(立命館大学)からときどき清水寺のことは聞いていた。お父上(横山正幸氏)がお寺の学芸顧問をしておられたことも。しかし、この番組ではじめて、亡きお父上の風貌に触れ、絵巻の原案を創られた方であることを知った。
番組では、清水寺がなんども焼失の憂き目をみたこと、しかしその都度、庶民の観音信仰によって復活してきたことが、応仁の乱と廃仏毀釈で陥った苦難の例で説明されていた。懐かしい大西良慶和上の映像とともに、清水寺が、檀家をもたない寺であり、宗派や身分を越えて人々を受け入れる寺であることも紹介された。
この絵巻について、五木寛之さんが、「ドラマチックな構成というよりも、庶民のいたみを静かに描き出している」と語っていたが、お寺の歴史を知るにつけ、絵巻のトーンが平明で明るいものになることもむべなるかな、と納得したことだった。
武田さんが、お寺から届いたという2冊のカタログのうちの一冊を、私に送ってくださった。ありがたいことである。絵と原案を併せてながめていると、「牛若丸と弁慶」(第5)、「物くさ太郎」(第6)、「一寸法師」(第7)「“舞台飛び”の流行」(第8)など、説話や時代の流行が巧みに織り込まれていて、清水寺が時代を超えて人々の信仰に支えられてきた寺であることが改めて実感される。
これほど親しみやすい縁起絵巻というものをほとんど知らないが、絵巻の構成と素材の選択に、原案者である横山氏のエスプリが感じられる。いつか実物をじっくり眺めてみたいものである。