いまごろ散ってしまった桜の話をするのもどうかと思うが、珍しく4月の第1週に都心の桜見物ができたので、心覚えに書いておこうと思う。4月2日のことである。夕方、市ヶ谷で大学本部の会合があり、ついでに花見をしようと思い立ったのだ。花曇りの肌寒い日だった。
東京駅を起点にして、内濠通りを時計と反対回りに歩く。千鳥ヶ淵あたりまでいってから、最後に市ヶ谷へ向かう計画である。ところが人の流れに誘われて平川門から東御苑に入ってみると、これが思いのほか面白かった。大手門の近くにある三の丸尚蔵館をピンポイントで訪れたことはあるが、御苑の奥に入るのは今回が初めてである。
桜の数はさほどではない。ただ、江戸城本丸御殿跡までくると、都心とは思えないほど広々した空がひろがっている。皇居の周囲をこんなに高いビルが取り囲むようになったのか、というのも新しい発見だった。
東御苑で予定外の時間を使ったので、コースを変更し、地下鉄で飯田橋にでて、そこから市ヶ谷まで土手の上を歩くことにした。中央線をはさんで外濠の向こうもこちらも満開の桜である。法政大学の学生さんたちが、地面にブルーシートや段ボールを敷いて、熱心に新歓の準備をしている。その陣地が土手の上に延々と続いているのも面白い。
もう20年も前のことになるが、法政大学で非常勤講師をしていたとき、同じコースをいつも逆方向に歩いていた。ICU高校に勤めていたころだ。武蔵境から市ヶ谷にきて電車を降り、大学まで土手の上を歩く。授業を終えるとそのまま神楽坂まででて夕食をとり、有楽町線で池袋へというコースである。あるとき食事を終えて店をでたら、何かの打ち上げだったらしく、山田洋二監督のグループが上機嫌で歩いているのにでくわしたことがある。
通例4月の第1週は、教職コースのガイダンスと新入生ガイダンスとが重なり、連日のようにバタバタしている。ほんの半日だったが、サバティカルのおかげで、今年はいつもと少し違う気分の第1週を過ごすことができた。