正岡子規の研究授業

ぼっちゃんバッグはときどき旅先にもっていく

ぼっちゃんバッグ ときどき旅先にもっていく

埼玉県小川町の小学校で、教育実習生・尾崎佳奈さんの授業を参観した。6年生の国語で、正岡子規の句「柿食えば 鐘が鳴るなり 法隆寺」を鑑賞する。

俳句の授業に行き合わせるのは珍しい。昔、ニューヨーク郊外の補習授業校で、芭蕉の句「古池や 蛙飛び込む 水の音」の授業に参加したことがある。この句に漂う湿潤な空気感、それと広い芝生に囲まれたアメリカの校舎のカラッと乾いた空気感がなんともミスマッチで面白かった。

ここ小川町は和紙の里で知られる。学年1クラスの小さな学校は、周囲を小高い山にかこまれて静かだ。ときは秋。子規の句の鑑賞にはうってつけの環境である。

子規の病が小康を得て奈良に旅した折に、お礼の心をこめて漱石につくった句だという。尾崎さんの授業は、熟した柿の実と夕方の空がともにオレンジ色で、その色彩が呼応しているという解釈だった。なるほど。ただ私は、この夏、東大寺の大鐘・奈良太郎を見てきたばかりだったから、子規がきいたであろう鐘の余韻の方に心が動いた。

大人になってから句作というものをほとんどしたことがないのだが、二つだけ例外がある。その一つが四国松山に旅したときの句で、鐘の音をテーマにして詠んだ。松山の町のあちこちに俳句ポストがあるので、それに刺激されて作ったのである。2006年の2月だったかと思う。

「石手寺や 鐘のひとつき 梅かほる」。雨上がりの道を石手寺まで行き、境内で鐘をついたところ、そのうなりが朝方の清澄な空気をふるわせ、梅の香がにおいたったという素朴な句である。

俳句ポストは2カ月ごとに開函されるらしい。忘れたころに、地元新聞の記事と入選通知が送られてきた。「「泉」主宰 上原白水 選」とある。2006年の2~3月分の投句が3月31日に開函されている。なんと第217回の開函である。作品数は1331句。このうち特選3句と入選20句が新聞に掲載されているのだが、私の句も入選20句の先頭にあった。

7月になって、こんどは過去1年間の入選作が載った『松山市観光俳句ポスト入選句集 第37巻』(松山市産業経済部観光産業振興課)が届いた。それによると俳句ポストに投函された平成17年度までの作品累計は34万1207句、投句者数は20万1464人にのぼる。記念品として、坊ちゃん列車がデザインされた手提げ袋まで同封されているではないか。

土地の文化というのか、子規の力というべきか。根岸の子規庵訪問などいくらか助走があったにしても、松山にいって詩心を刺激されたことが、思いがけない展開をもたらした。わずか17文字のなかに、色、音、香り、気分、動作、そして人生や歴史までも凝縮してしまう俳句というものの凄さを、今回の授業参観で改めて感じたことだった。

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