日別アーカイブ: 2013/09/02

池田香代子さん―第1回「著書を語る・著者と語る」

百人の村 002きのう先輩の高村幸治さん(元岩波書店編集部長)のおさそいで池田香代子さんと語る会に参加した。限定45名。武蔵野公会堂の会議室は、30年前に「美術の会」の例会をやっていたところなのでなんだか懐かしい。

会の名称は、出版NPO「本をたのしもう会」が主催する第1回「著書を語る・著者と語る」。大きな講演会を10年間続けてきた団体が、より親しみやすい企画をとはじめた催しである。1時間ほど著者がかたり、1時間半ほど著者と語る。

配布資料をみると池田さんの作品は翻訳書だけで120冊ある。大変な仕事量だ。『夜と霧』、『ケストナー全集』など良く知られている作品の刊行の経緯を、池田さん自身の人生と重ねて紹介してくれる。これが話の中心だが、実物も見せてくれるからいっそう興味がひかれる。

ミリオンセラー『世界がもし100人の村だったら』の出版はもともとアフガニスタンの中村哲さん(医師)の事業に寄付するお金をえようとしてはじめたものだったとのこと。この仕事を通して池田さん自身の人生が変わり、社会派への道を歩き始めることになる。

池田さんは、『グリム童話』(全5巻)の担当編集者が自分の“第一発見者”だという。この編集者が、初対面の池田さんに「ようやく(ふさわしい人を)みつけました」といったらしい。翻訳者冥利。意気に感ぜざるをえない。私にも似たような経験があるのでよく分かる。はじめての単著『討論や発表をたのしもう―ディベート入門』(ポプラ社)の編集者・杉浦純子さんとの出会いのことだ。これについては別の機会に。

質疑応答のなかで、高村さんがある雑誌にのったエピソードを紹介してくれた。それによると、中村元先生(仏教学)のご遺族が、『ソフィーの世界』を先生のお棺におさめた。中村先生は『ソフィーの世界』がよほどお気に入りだったらしい。日頃から「こんな風にやさしく書くことを自分も勉強しなくては」と語り、出張の荷物に入れるほど愛読していたのだという。

波長のあう作品だけを選ぶ、自分の頭で分かるように翻訳する、これが仕事に対する池田さんの姿勢である。そうした姿勢がこのエピソードにつながったのだろう。

今回の演題は「いま、私を突き動かすもの―憲法、原発、教育、メディア、そしてアウシュビッツ」とある。長い。いくら池田さんが護憲運動の先頭にたって発信したり、福島の被災者のサポートに奮闘したりしている方とはいえ、いささか論点過多ではと心配したが、それは杞憂だった。

池田香代子さんの話をうかがうのは8年ぶりだ。2005年に全国私学・国際教育研修会で「100人の村から見えること」と題して講演していただいた。そのときよりも今回の方がずっとリラックスしておしゃべりしている。

仕事も人生も出会いの連鎖で成り立っている。“変わらない人生はない”というのが池田さんの確信だが、数々の出会いを通して変貌を重ねてもなお変わらないものがある。池田さんにあって変わらないものはその凛とした姿勢だろう、そんなふうに感じた。