日別アーカイブ: 2013/05/01

時間の堆積

週末に、生家の管理で秋田に帰った。東北地方は桜の開花が遅いと聞いていたが、想像以上である。北上市で秋田道に入ると、湯田町あたりの田んぼがまだ一面の雪におおわれ、折からの雨で視界が曇るほど靄が立ち込めている。

生家の花も遅れている。5本の梅の木の一本がわずかにほころんでいるが、山桜2本ははまだ固いつぼみのままだ。冬枯れの気配が漂うぶん、実生で芽をだしたヒバ、椿、オンコ、杉の若葉や、庭を行き来する野生のキジの赤と緑の装いがいっそう鮮やかに感じられる。

これまでじっくり眺める余裕がなかったが、今回は、どうしてか厳しい冬を耐え抜いた古木の樹皮にこころがひかれた。

梅にできた巣穴 鳥の姿はみえない

この梅の木が立ち上がった 巣穴に鳥の姿はみえない

農家の庭には実物(みもの)が多い。わが家でも屋敷の周囲に柿の木が10本ばかり植わっていた時期がある。ことに西庭の梅は、子どものころ何キロも梅干しの材料を供給してくれた。70年代の前半に台風で倒れたものの、どんな加減か自力で立ち上がったと、母親が驚いて東京まで電話してきた。いまはさすがに満身創痍である。おそらくアカゲラだろう、キツツキが大きな巣穴をつくっている。

ヤマナシの幹

ヤマナシの幹

東庭の築山にあるヤマナシは、レッドデータブックで絶滅危惧種になっているものだ。幹の周囲が一抱え半ほどあり、これもたくさん実をつける。東北地方の救荒食だったのではないか。ただ、われわれ子どもにとっては存在感の薄い木だった。すでに実を食べる習慣がなかったからだ。いま幹の半分が空洞で、周囲の木々が風を遮ってかろうじて自立している。もし裸でたっていたら、とっくに姿を消していたにちがいない。

五葉松

五葉松

南庭のシンボルの五葉松は、10本の台木に支えられている。三八豪雪でてっぺんの枝が雪折れし、いたいたしい姿になった。雪国の五葉松というのは、肘をまげて掌いっぱいに大量の雪を載せるかたちだから、もともと負担の大きい姿である。ことしも雪が多くいくつか雪折れした。枝の一部が白骨化しているところもある。いまも樹勢はさかんだから、帰省のたびに「頑張れよ」と心で呼びかける。

ヤマナシ これは一昨年の写真

ヤマナシ これは一昨年の写真

生前の父親は、自分が手入れした木の根方に腰をおろし、ゆっくり煙草をのむのを最上の喜びとしていた。山持ちの二男に生まれ、小さいころから植林を続けた人の習慣である。よくいっていたのは、樹木にそれぞれ違う霊気のようなものがある、ということだ。父親から管理を引きついで10年になるが、残念ながら、私にはそれを味わうセンスがない。

ただ、さすがに私でも、ごつごつした木肌に触れていると、どこか厳粛な気持ちになる。指先の感触とともに、家族の歴史や地域の暮らしが自然に甦ってくるからで、それが時間の堆積を感じる、ということなのだろう。だからこの庭は、生きた博物館の役割もしている。