京都南座-花道から奈落まで

花道の板が意外にしなる

花道の板が意外にしなる

阿国かぶき発祥410年と銘打つ「南座春の特別舞台体験」が、4月16日まで行われている。お花見シーズンとあって、劇場の前はラッシュアワー並みの人出だが、建物にはいると意外なほど静かだ。

予約券をもって客席集合。ここでスリッパにはきかえる。花道をとおって舞台にあがり、もういちど花道から客席に戻る、それだけのプログラムだから、時間にすればほんの20分ほどだろう。しかし、これが滅法おもしろい。

3階席はロンドンの劇場より観やすい

3階席はロンドンの劇場よりも観やすい

舞台の真ん中にきて客席を振り返ると、三階席の奥までパッと視野が開ける。これが歌舞伎役者の側の視界ということになる。千席ほどあるらしいが、これなら居眠りしている客の様子だって手にとるようにわかるだろう。それくらい見晴らしがいい。

客席からみると芝居の一場面のようだ

客席からみると群集劇の一場面のようだ

盆(ボン)にのって回り舞台を体験したあと、50人の客が二手に分かれ、迫り(セリ)の上がり下がりを体験する。高い方は2メートル近く昇る。2階席にいる見学者の顔がぐんぐん近づきちょうど正面あたりまでくる。奈落の側では、荒い鉄の柱組やその奥の雑多につまれた道具、照明器具などが見える。

ずいぶん高低差がある

ずいぶん高低差がある

わたしのバックステージ・ツアー体験のはじまりは、ウィーンのオペラ座である。もう35年ほど前のことだ。建物の立派さもけた違いだが、ガランとした舞台にたって、その奥行きの深さに度肝を抜かれた。

その日、フォルクスオーパーに「メリー・ウィドウ」を観にいき、10シリング(170円)の立見席で、若い日本人女性と知り合った。音楽大学にピアノ留学しているひとだ。翌日、オペラ座のまえで待ち合わせ、野外カフェやら博物館やらとお気に入りの場所を案内してくれた。まるでロマンティック小説みたいな展開だが、これは余談。

南座の舞台はもちろんそんなに広くない。わたしが注意をひかれたのは、床板そのものだ。長年つかいこまれた木曾のヒノキ材は、表面が痩せ、いたるところに凹凸がある。装置の金具もあちこちにみえる。こんなところでトンボを切ったりかけまわったりするのかと、おもわずスリッパをぬいで、ザラザラする感触を味わってみた。

最後が「チョンパ」体験である。緞帳をおろしたまま、舞台も客席も暗転させる。真っ暗闇のなかで、静かに幕が上がり、チョンチョンという澄んだ柝(キ)の音を合図に、照明がいっせいにパッとつく。目の前に客席をみわたす例の景色が、一瞬で出現する趣向。出をまつ役者の気分そのままの世界だ。

こんな演出されたら、どうしたってまた歌舞伎が観たくなるじゃないか。

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