総評を書く

作文集 005

『地球に学ぶ』(海外子女教育振興財団発行)が届いた。「海外子女文芸作品コンクール」の優秀作を収載した本である。33回目のことしは、海外在住の小中学生から、詩、短歌、俳句、作文あわせて3万7千点をこす応募があり、そこから選ばれた195点が収録されている。

10年以上、作文審査にくわわっているが、本がとどくと、まず真っ先に部門ごとの選評をよむ。見開き2ページの短い文章に、作品評だけでなく、ものの見方や創作上の工夫など、選者独自のアドヴァイスが提示されているので見逃せない。

長田弘さん(詩人)はこう書いている。「「ふるまい」という日本語があります。いまはご馳走するという意味で使われがちな言葉ですが、もともとは、人の「おこない」や物の「しわざ」をいう、古くからとても重要なことばです。・・・人のもつ、あるいは物事のもつ大事な意味は、その「ふるまい」のなかに表れます。詩というのは、実は、そうした「ふるまい」を読み取って記される言葉のことです」。

これに続けて、パン屋の店員さんや現地の友だちが、あいさつをかわすときに、同じ声の高さ、同じ速さ、同じリズムで応答してくれることに注目して、ボンの人はとても音楽的だと書いた小学校4年生の作品など、5作品を紹介する。そのうえで「みんなの詩に生き生きと書きとめられている、それぞれの国での毎日の出来事のなかの、さまざまな「ふるまい」の表情。世界は、こうした日々の「ふるまい」でできています」という。

佐々木幸綱さん(歌人)は、ことしベルリン日本語補習校やジュネーブ日本語補習校などで授業したことをあげてから、「私の長男は、むかし、アムステルダム日本人学校で一年間お世話になりました。ですから、日本人学校について多少知っていましたが、日本語補習校のじっさいについては、今回はじめて知りました。片道一時間以上もかけて通ってくる生徒さんとも話しました。先生方、生徒たちの苦労はこれまで想像していた以上の、たいへんなもののようでした」と体験を披瀝する。

そして、「毎回書いていることですが、その国の名所や名物を題材にした、型どおりの作があいかわらず多いようでした。題材の選び方を工夫してもらいたいと思います」と独自の題材をみつける重要性を指摘している。

鷹羽狩行さん(俳人)は「俳句は、季語をとおして世界をとらえる詩です。通学の途中の風景や、その日に食べたもの、身につけているものなど、毎日の暮らしの中から素材を探してみましょう。季節に敏感になると、生活がいきいきと感じられます」と述べる。

そして、擬声語・擬態語のきまりきった表現をさけることや、もう一歩の作品をどう改訂するのかその添削の仕方をしめしたあと、「一度できた作品をさらに吟味し、表現を工夫することを推敲といいます。俳句としての完成度を高めるために、推敲は欠かせません。内容あっての表現ですが、内容にふさわしい表現を得たとき、ようやく作品が完成するのです」と書いている。

この本のおもな読者は、投稿してくれた小中学生、父母、学校の指導者のひとたちである。こうした幅広い年齢層の読者に届くことばで選評を書くのはむずかしい。だからいつだって悩むのだが、3人の方々の文章にふれるたび、それも私の文章修業のひとつだと思い直すことにしている。

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