月別アーカイブ: 12月 2012

本放送をみる

TOKYO MXテレビの「トウキョウもっと2!元気計画研究所 #29」(東京都議会提供)を面白くみた。自分の出演している番組を、おもしろいというのもない話だが、こんな理由だ。

ひとつは、編集の妙である。2時間ちかくかけて撮ったスタジオ収録の発言を、どうやって明快なストーリーにするのか、高森ディレクターの腕のみせどころである。

順を追って話す、まんべんなく論点をもりこむというのが、教師の「病」である。テレビでは、これがしゃべりすぎの原因になる。心がけてはいるのだが、この癖はなかなか直らない。

当然のこと、発言を大胆に刈り込む必要がある。発言のどこをひろい、どこをすてるのか、悩ましいことだろうが、みていて「なるほどこうきたか」というシーンがいくつかあった。わけても、地域社会のしぜんな交流がうすれていく現状から、地域に広がるコミュニケーション、世代を超えたコミュニケーションの経験を、新しい教養と定義したコメントを残してくれたのは、よかった。

仕上がったものをみると、司会のいとうせいこうさんの発言などは、独自のきりこみがあって、しかも無駄がない。

もうひとつは、本放送をみてようやく番組の全体像がみえたことである。企画について相談をうけることはあるが、出演者として、ロケーションからスタジオ収録まで参加したのは、はじめてである。

NHKテレビで、ディベート番組の番組委員として視聴者の反応にふれたり、終戦記念日の特番のVTR取材をうけて画面にうつったりというように、いろいろな形でお手伝いしてきた。それにくらべると、制作プロセス全体をじかにみる経験は、モノづくりの面白さをよりつよく実感できるものだった。

何人かの方から、さっそくコメントをいただいたが、おおむね好評である。これは一視聴者としての印象だが、「元気計画研究所」は、1時間・1テーマの番組だから、じっくり落ち着いてみられる。29回も続くシリーズとあって、構成が洗練されているうえに、手作り感もタップリある。こちらは、ひごろから地域活動をしている議員さんたちが、地に足のついた発想・発言をするせいだろう、と思う。

再放送は、1月5日(土)14:00~。番組では、9分ほどに編集されている芸優座のワークショップだが、せっかくだから、完全バージョンをつくろう、という声がでているやに聞く。もし実現したら、それも大きな余禄である。

総評を書く

作文集 005

『地球に学ぶ』(海外子女教育振興財団発行)が届いた。「海外子女文芸作品コンクール」の優秀作を収載した本である。33回目のことしは、海外在住の小中学生から、詩、短歌、俳句、作文あわせて3万7千点をこす応募があり、そこから選ばれた195点が収録されている。

10年以上、作文審査にくわわっているが、本がとどくと、まず真っ先に部門ごとの選評をよむ。見開き2ページの短い文章に、作品評だけでなく、ものの見方や創作上の工夫など、選者独自のアドヴァイスが提示されているので見逃せない。

長田弘さん(詩人)はこう書いている。「「ふるまい」という日本語があります。いまはご馳走するという意味で使われがちな言葉ですが、もともとは、人の「おこない」や物の「しわざ」をいう、古くからとても重要なことばです。・・・人のもつ、あるいは物事のもつ大事な意味は、その「ふるまい」のなかに表れます。詩というのは、実は、そうした「ふるまい」を読み取って記される言葉のことです」。

これに続けて、パン屋の店員さんや現地の友だちが、あいさつをかわすときに、同じ声の高さ、同じ速さ、同じリズムで応答してくれることに注目して、ボンの人はとても音楽的だと書いた小学校4年生の作品など、5作品を紹介する。そのうえで「みんなの詩に生き生きと書きとめられている、それぞれの国での毎日の出来事のなかの、さまざまな「ふるまい」の表情。世界は、こうした日々の「ふるまい」でできています」という。

佐々木幸綱さん(歌人)は、ことしベルリン日本語補習校やジュネーブ日本語補習校などで授業したことをあげてから、「私の長男は、むかし、アムステルダム日本人学校で一年間お世話になりました。ですから、日本人学校について多少知っていましたが、日本語補習校のじっさいについては、今回はじめて知りました。片道一時間以上もかけて通ってくる生徒さんとも話しました。先生方、生徒たちの苦労はこれまで想像していた以上の、たいへんなもののようでした」と体験を披瀝する。

そして、「毎回書いていることですが、その国の名所や名物を題材にした、型どおりの作があいかわらず多いようでした。題材の選び方を工夫してもらいたいと思います」と独自の題材をみつける重要性を指摘している。

鷹羽狩行さん(俳人)は「俳句は、季語をとおして世界をとらえる詩です。通学の途中の風景や、その日に食べたもの、身につけているものなど、毎日の暮らしの中から素材を探してみましょう。季節に敏感になると、生活がいきいきと感じられます」と述べる。

そして、擬声語・擬態語のきまりきった表現をさけることや、もう一歩の作品をどう改訂するのかその添削の仕方をしめしたあと、「一度できた作品をさらに吟味し、表現を工夫することを推敲といいます。俳句としての完成度を高めるために、推敲は欠かせません。内容あっての表現ですが、内容にふさわしい表現を得たとき、ようやく作品が完成するのです」と書いている。

この本のおもな読者は、投稿してくれた小中学生、父母、学校の指導者のひとたちである。こうした幅広い年齢層の読者に届くことばで選評を書くのはむずかしい。だからいつだって悩むのだが、3人の方々の文章にふれるたび、それも私の文章修業のひとつだと思い直すことにしている。

正月を迎える

秋葉権現 1978年の撮影

上京して食べる機会がなくなったものに、真っ赤な酢蛸(すだこ)がある。物心ついてから、正月の食卓にずっとあったものだ。先日スーパーでみかけて、幼少期の光景がよみがえってきた。うかんでくるのは、3世代8人家族の暮らしぶりである。

1950年代の農村では、小学生といえども、春の菖蒲叩き、夏の七夕行列、正月のなまはげなど、季節ごとになにかしら行事があったから、時間の区切りがいまよりもはっきりしていた。

ことに正月迎えの儀式が忘れがたい。いつからはじまったものだろうか。わが家では、大晦日の夕方に、屋敷内を参拝してまわる習慣があった。気忙しい準備のハイライトである。仏間、三面大黒のある台所、屋敷の西南方向にあるお稲荷さんの祠、母屋の西にたつ米蔵というように毎年おなじルートでまわる。享保年間の棟札のある土蔵が、その当時、米蔵になっていた。

昼間のうちに父親が、母屋から庭をつっきり、祠と米蔵にいくルートの雪かきをしておく。その細いみちをたどって土蔵にはいると、厚い漆喰扉のむこうに大きなろうそくの炎がゆれ、ととのえられた祭壇をほの明るくみせている。周囲をとりまく漆黒の闇がことに幻想的である。

コースを一巡して明るい客間にもどり、さいごに天井近くにしつらえられた神棚をおがむ。餅花がさがり、石造の秋葉権現がおかれた神棚だ。長押には、天照大神をまんなかにして、農神、高砂、お多福などの軸が盛大にかざられ、まるで神々が勢ぞろいしたようなにぎやかさになる。その前のテーブルにお供え物を載せたお膳が二つ。佐竹藩主の描いた茶がけの軸も、この時期だけかかる。

この儀式がすむと、めいめいがお膳について、大晦日の夕食になる。一年の感謝と来年への期待がこもった食事には、どこか厳粛な雰囲気があった。そのお膳に欠かせないのが、ぶつ切りの蛸なのである。

いく日もかかる正月迎えの準備があってこそ、正月気分がいっそう晴れがましいものになる。年取りの夜が明け、新しい履物や衣類をととのえてもらうと、すがすがしい気分になった。

「ハレ」と「ケ」というが、こうした儀式を通して、日常の時間のなかに非日常の時間が入り込んでくる。そこにうまれるのが、いまは失われてしまった演劇的空間である。わたしにとってその空間は、光と闇のコントラストが鮮やかな世界だった。

スタジオ収録

収録のあいまに記念撮影

砧の東京メディアシティ・A2スタジオで、TOKYO・MXテレビの番組「トウキョウ、もっと!元気計画研究所♯29」の収録があった。収録時間は2時間だが、本放送の流れ通りに進行する。カラフルなセットのまわりに、クレーン・カメラをふくむ4台のカメラ、その外側に思いがけないほどたくさんの関係者・スタッフが動いている。

東京は、小雨のふる寒い一日。衆院選挙+都知事選挙の翌日とあって、4党の議員さんたちは、ねる時間がほとんどとれないままスタジオ入りしたらしい。

「元気計画研究所」は、東京がかかえるさまざまな問題の解決策を提案する番組。今回のテーマは、いじめ問題などが頻発するいま、若者のすこやかな心を育むために、オトナはいったいなにができるのか、である。それにたいする番組からの提案は、演劇をつかったコミュニケーション教育をしよう、というもの。

「研究所長」は、司会のいとうせいこうさん。わたしは、いとうさんの質問にこたえて、議員さんたちに解説する「研究員」の役柄。ドラマ技法でいう「専門家のマント」みたいな構成である。編集の手助けになればと、論点を多めにもりこんで説明したので、ちょっとしゃべりしすぎたかもしれない。

番組の後半に、もう一人の研究員・尾田量生さん(ドラマケーション普及センター長)の指導で、いとうさんと議員さんたちがドラマケーションを体験するコーナーがある。尾田さんのファシリテーションは、ソフトな語り口でむだがない。さすがである。

わたしはセットの外側で見学。みなさんの動きがあまりになめらかで個性的だったせいで、スタジオがどんどんなごむ。それに反応して、わたしの笑い声が本番中のスタジオに響いたらしい。いとうさんから「渡部さんが大うけしている」とコメントがあったので知った。面目ない。

面白いことに、研究所のカイケツ案にどれくらい説得力があるのか、議員さんたちが0から100パーセントの範囲で投票するシステムになっている。この「納得度チェック」が番組中に2度ある。もちろん最後の投票で数字がアップする方がのぞましいのだが。さて、議員さんたちの判定やいかに。ぜひ本放送でご確認を。

番組は、東京ローカル局のMXテレビ(9チャンネル)の1時間もの。本放送が12月29日(土)18時から、再放送が1月5日(土)の14時から。芸優座の稽古場でのワークショップが、どういう視点で編集されたかも見ものである。

番組制作進行中

年末の12月29日(土)と年明けの5日(土)に、東京ローカル局のMXTVで放送される番組「トウキョウ、もっと!元気計画研究所♯29」のお手伝いをしている。テーマは、演劇をつかってコミュニケーション教育をしよう、というもの。東京都議会提供の1時間番組で、来週のスタジオ収録には民主、自民、公明、共産4党の議員さんたちが登場する。

きょうは番組内でながすVTRの収録。調布市にある劇団・芸優座の稽古場をおかりして、ワーックショップをした。参加したのは、幼稚園の年長さん、小学校2年生、6年生、そして親御さんたち、あわせて15人。おとなりの府中市在住の方が多い。

こんな幅ひろい年齢層のワークショップは、さすがにはじめてだが、宮崎充治先生(桐朋小学校)とふたりでファシリテートするから、このうえなく心強い。わたしのコトバが子どもたちに届いていないとみるや、すかさず「つぶあんっていうのはねえ」と年長さんのそばでささやいてくれる。

プログラムは、獲得研のシリーズ本第1巻、第2巻のドラマ技法・ウォーミングアップ技法から、15のアクティビティを選んで構成した。

テレビカメラが3台もまわっているから、最初はちょっと緊張している様子。ただ、驚いたのは子どもたちの集中力が最後までとぎれなかったこと。前半50分、後半1時間のプログラムをなんなくやりきってしまったのだ。そのうえ、家族ごとのインタビュー撮影までこなして、すっかりうちとけて帰っていった。

世代をこえたコミュニケーション、地域に広がるコミュニケーション、全身をつかったコミュニケーションという番組のコンセプトを象徴するようなシーンだった。

さて、あの生きいきと楽しい雰囲気を再現するどんなVTRができるのか、ディレクターさんも大変だが、きっとやりがいのある苦労なのでは・・・。