若者の海外体験

「第33回海外子女文芸作品コンクール」(主催:海外子女教育振興財団)の最終審査をおえた。小中学生の作品審査にかかわるようになって13年、いまや秋の恒例行事である。応募作品は、短歌、俳句、詩、作文の4分野で総計3万7千点あまり、このうちわたしが関係する作文の部は4219点だ。

2次審査まで通過した作品のなかから特選作品14 点をえらぶ。むずかしい仕事だが、生きいきとした海外体験にふれるまたとない機会である。異文化にとびこむ不安、ことばを学ぶ苦労、家族の絆、友情、お世話になった教師、学校生活、現地の自然・社会・文化、日本へのおもいなど、いろいろなテーマが登場する。

パリ日本人学校の日本文化紹介コーナー

獲得型授業論のベースのひとつが帰国生の海外教育体験だから、若者たちの体験にはとくべつ思い入れがある。それに、1980年からこんにちまで、帰国生・海外生の海外体験と30年以上向き合っている。そのことからどんな影響をうけたのか、朝日新聞のコラム「あめ はれ くもり」の連載2回目に書いたことがある。(コラムは6回連載 以下:改行を一部変更)

「高校教師をしていた一九八〇年の夏、期末テストの答案用紙をにらんで思わずうなった。欄外に「なぜ先生は授業にもっと生徒を参加させないんですか?」と帰国生の一人が書いてきたのだ。本腰を入れて調べると世界の驚くほど多様な参加形態が見えてきた。「海外帰国生」(90年)でそうした事例を紹介し、知識注入型から獲得型へ日本の教育を徐々にシフトさせるべきだと提案した。

獲得型授業は私の造語だが「自学」と「参加・表現」という二つの側面を含む概念である。学習者が種々のアクティビティ(活動)を通して知識だけでなく学び方そのものも習得していく。

「公民科教育法」(60名履修)では学期始めにモデル・プレゼンテーションの有志を10人募る。2チームが授業と平行して準備を進め、8週間後にドラマ仕立ての発表を披露するのだ。テーマ選び、調査、情報の編集、脚本作り、発表本番(30分)と細かくステップを踏んで完成させる。「生徒になって」発表しながら同時に獲得型授業の指導方法も学ぶ入れ子構造のプログラムだ。

今年「ターミナルケア」と「ネットいじめ」に挑戦した学生はもちろん制作過程を間近で見守った学生からも「教師になったら取り入れてみたい」という声が多い。

生徒の書いた一行の文章が私を政治思想の研究から教育方法の研究に導いた。ずいぶん離れた所まできたという思いとどちらも参加民主主義の根っこを探る研究だという思いの両方が私の中にある。」(「私を変えた生徒の一文」2009年9月2日付)

コンクールの入選作品は『地球に学ぶ』第1集~32集として刊行されていて、こちらは日本の国際化と異文化接触の変容について考えるための貴重な資料になっている。海外子女教育振興財団のHPでコンクールの様子を知ることができる。(URL:http://www.joes.or.jp/bungei/index.html

コメントは停止中です。