方言とラジオ (2)

編集部の山本さんの初仕事だった

ずっと後の話だが、方言とラジオについてちょっとしたエピソードがある。1989年の春にICU高校に在籍する25カ国・87名の帰国生たちの教育体験を集めた本『世界の学校から―帰国生たちの教育体験レポート』(亜紀書房)を出版したときのことである。

第1章:学校生活、第2章:授業・テスト・受験制度、第3章:体罰・校則・管理主義、第4章:教師と生徒、生徒と生徒の人間関係、第5章:家庭・社会・学校という構成の本だ。管理主義的な日本の学校の常識とはかけ離れたエピソードが満載ということで、朝日新聞やNHKの国際放送などいろいろなメディアに取り上げられた。

8月になって、野沢那智、白石冬実のお2人がキャスターをつとめる民放のラジオ番組の担当者から電話があった。お昼の番組で本を紹介したいというのだ。受験生時代に那智チャコの「パックインミュージック」に親しんだものとしては感無量、むろん異存のあるはずがない。出版社も大喜びで、放送後のリスナーからの問い合わせに備えることにした。

NHKのスタジオ-スポーツ中継で活躍の福島アナと

職場でその話をすると、言葉にくわしい斉藤和明校長(ICU教授 シェークスピア研究)と日本語科のIさんが「渡部さんの発音やイントネーションに秋田弁の影響がどのくらいでるか判定しようじゃないか。」という話になった。

当日、スタジオと研究室の電話をつないで紹介コーナーが始まった。本に登場するエピソードをまずチャコちゃんが読み上げ、那智っちゃんの質問に答えて私がコメントする。そのパターンを何度か繰り返したのだから、けっこう時間をさいてくれたようだ。さすがと感じたのはお2人の軽やかなリズム感、それにのって思いのほか楽しくおしゃべりできた。

放送後の、斉藤さん、Iさんの判定は、「秋田弁のニュアンスはほとんど感じなかったね。」ということで一件落着。ただし、リスナーの反響ははかばかしくなかった。くだんのコーナーが高校野球の決勝戦しかも最終回の攻防の時とピタリ一致してしまったせいで、まったくの空振りに終わったのだ。

このときばかりは幸運と不運が一緒にやってきたような気分だった。

 

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